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第36話 貴臣の友達?
自宅に着いて中に入り、内鍵を閉める。すると奥のリビングから話し声が聞こえてきた。
貴臣と誰かが話しているようだった。
三和土には、見慣れない茶色のローファーが置いてある。
客だろうか。すぐに貴臣が顔を覗かせた。
「おかえりなさい」
「……ただいま」
その後に、貴臣と同じくらいの上背で端整な顔立ちの男が出てきた。
貴臣と同じ制服を着ている。足もすらっと長くって、一言で表すと、なんだかとってもイケメンな人だった。
「こんばんは。すいませんこんな時間まで。もう帰りますんで」
「あ、いえ、別に、おかまいなく」
爽やかに挨拶をされ、少々緊張しながら頭を下げる。
貴臣も靴を履きながら俺に笑いかけた。
「駅の方まで、一緒に行ってきますね」
「う、うん」
男が外に出ようとレバーを押したが、さっき俺が鍵を掛けたので開かなかった。貴臣はそれに気付き、すぐに鍵を捻ってドアを開ける。
「どうぞ」
「ありがとう」
男はふわっと笑いながら貴臣を見つめて、外に出た。
貴臣にエスコートしてもらえて満更でもない様子だ。
なんだなんだ、その嬉しそうな顔。
なんだかまるで。
2人が出ていったのと同時に即座にドアに耳をぴったりと貼り付けると、会話がうっすら聞き取れた。
「今日はどうもありがとう。遠いのにわざわざ来てくれて」
「いいよ。遠いっつっても2駅だろ。今の人が義理の兄貴?」
「そうだよ」
「なんか女みてぇに可愛い顔してんな。本当に高2?」
「未だに中学生に見られる時があるって言ってたけど──」
聞き取れたのはここまでだった。
女みてぇとか、失礼な。
その後の会話が気になる。こっそり後をつけて全部盗み聞きしたいくらいだ。
だって貴臣が家に誰かを連れてきたのって、初めてじゃないか?
貴臣は相手に気を許してて、相手も貴臣を信頼してて……
いや、信頼っていうかあれは、貴臣に恋をしているような瞳をしていたのは気のせいか?
こんな時間まで、家で何をしてたんだろう。
ムカムカと嫉妬心が沸いてくるのと同時に、激しい虚無感にも襲われた。
こんな風になる自分は、ちっとも貴臣を諦められてない。
この間のキスにも原因があるだろう。
あんな、恋人に対してするような優しいキスしないでほしかった。
あの日からずっと、気持ちが揺さぶられている。
しばらくすると貴臣は帰ってきたので、さっきの男について訊いてみた。
「さっきの人、友達?」
「ええ。クラスメイトなんです。学祭で出すスイーツの試作をしていて」
「店にまとめて発注するんじゃなかった?」
「そうなんですが、自分たちでもなにか作れないかと思ったんです。ホットサンドプレートを使って簡単なデザートでもと思ったんですが、結局予算オーバーになるのでやめました」
予算オーバーって、そんなの試作する前から分かりそうなものだけど。
「それを提案したのって、貴臣?」
「いえ、友人が」
だと思った。
試作したいとかいうのはこじつけで、本当は家に来るのが目的だったんじゃないか?
ハッとして、首を横に振る。
ダメだダメだ。ムカムカしてるからって、あの人が策士だという風に決めつけちゃ。
そうは思うけど。
夕飯を作る為にエプロンをつけ始めた貴臣の背中を見ていると、どうしてもさっきの人のことが気になって結局口にしてしまった。
「さっきの人さ」
「はい」
「たぶん、だけど……貴臣のこと好きなんじゃね?」
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