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第37話 怜、ショックを受ける。

 貴臣は手の動きを止めて、こちらを振り返った。   「へぇ……どうしてそう思うんですか」 「なんか視線とか? 貴臣のことジッと見てたし」 「友達だからじゃないですか」 「ちげーよ。あれは、たぶん……」  言いながら恥ずかしくなってきた。  あの人が貴臣を好きだろうが、俺がとやかく言う権利はないのに。  貴臣は様子を伺うように俺を一瞥した後、くすくすと笑った。 「もしそうだとしたら、兄さんはどうするんですか?」 「えっ別に……」  自分でも分からない。  あの人に優しくして、期待を持たせるようなことはするなとでも言いたいのか。そんなの余計なお世話だ。  そっぽを向いていると、頬に手を添えて撫でられた。   「兄さんって、鈍感そうに見えてそういうのは意外と鋭いんですね」 「ど、鈍感って」 「当たりですよ。あの友人は、俺のことが好きなんです」 「は?」 「実は夏休み明けに、告白されたんです。その時は、この先も良い友達でいたいって伝えたんですが、最近になって考えが変わりまして」  心臓がバクバク言っている。  貴臣があの人に告白された? そんなの一言も聞いてなかった。 「考えが、変わったって……?」 「俺も、前向きに考えてみようかなと思い始めました」  それって、つまり──  覚悟はしていたつもりだったが、予想以上にショックを受けた。  動揺しつつも、気のない素振りを見せる。 「おぉ、マジで。貴臣も男と付き合おうって気になった?」 「はい、そんな感情が芽生えてきました。兄さんとレッスンをしていなかったらこんな風には思わなかったでしょう」  待って待って。俺、顔大丈夫かな。  ちゃんと笑えてる?  やっぱ、この前のキスに深い意味なんてなかったんだ。なんとなく。適当に。そんなんだろう。  この数日ずっと気持ちが揺さぶられていたのに、貴臣は全く別のことを考えていたんだと思うと、悔しくて涙が出そうになった。 「あ、そう……んだよ、それだったら、俺と性癖理解の特訓なんてしてたらダメじゃね?」 「いえ、それはきちんと最後まで成し遂げる約束ですから。友人には、全てのレッスンが終了したら返事をするつもりです」 「はは。じゃあやっぱり、早めに全部クリアしとくか。俺もお前も、待ってる人がいるんだから」 「そうですね。今日なにかしましょうか? 最近少しサボり気味ですよ」 「うん、そうだな、じゃあ……」  そうだ。特訓。特訓しなくちゃ。  何のために?  あ、そうだ。俺が大好きな先輩と付き合う為にだ。  ぐるぐると、頭の中をエロい言葉が駆け巡る。  渦巻いて竜巻みたいになって、的確な言葉が1つもすくえない。 「やっぱ、気分乗らないからまた今度でいいや。夕飯もいらない」  荷物もそのままに、俺は1人で階段を上った。

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