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第38話 「プリンです」

   布団を頭からかぶってダルマになっていたら、貴臣が部屋に入ってきた。 「兄さん、荷物置いておきますよ」 「おぉ、悪い」 「秋臣と会っていたんですか」  バッと頭を出して貴臣を見ると、秋くんが描いてくれた絵を手に持っていた。 「なんで秋くんが描いたって分かるの?」 「それは分かりますよ」  それだけ言って、机の上に絵を置いた。  そうか。小さい頃からずっと、秋くんが絵を描くところを見ていたんだろう。  秋くんは貴臣の名前を聞くだけで不機嫌になっていたけど、どうやら貴臣は違うみたいだ。  さっきの予想外の告白に傷心しているが、それはそれと気持ちを切り替えて起き上がった。 「秋くん、絵上手だよな。貴臣の高校には美術科があるから、今度見学行ってみたらって勧めといたけど、はぐらかされちゃったよ」 「そうですか」 「どうして秋くんと喋んないの?」  ドアノブに手をかけた貴臣は動きを止める。 「どうしてって」 「離れて暮らしてても家族だろ」 「何か言われたんですか」 「ううん、逆。秋くんはなーんにも言ってくれない」 「そうですか」 「ちょいちょいちょい!」  スマートに部屋を出ていこうとしたので、貴臣の前にまわってドアを閉めた。 「秋くんと、ちゃんと話したいとか思わない?」 「あちらが話す気はないようですので、俺も同じ対応をしています」 「なんでそんな風になっちゃったの? 喧嘩?」 「兄弟にはいろいろとあるんですよ」 「お、俺とお前だって、兄弟じゃん」 「……」 「俺たち、血は繋がってないかもしれないけど兄弟じゃん。俺、貴臣の力になりたいんだよ」 「えぇそうですね。俺と貴方は兄弟。だから困っているんです」 「え、何が?」 「いいえ、なんでも」  貴臣は部屋の奥にいき、ベッドの上に腰かけた。  言葉の意味を探るけど、考えても分からなかった。  俺と兄弟だからって、貴臣が何を困るっていうのだろう。そんなの俺が1番困ってる。兄弟じゃなければ、ちゃんと好きだって言えたかもしれないのに。 「いつまでも意地を張っていてもしょうがないですね。少々恥ずかしいですが、兄さんに教えますよ、秋臣と不仲になった理由」  貴臣の隣に座って、ごくりと唾を飲み込む。  なんだかこっちが緊張してしまう。  貴臣は俺をジッと見つめたまま、大真面目な顔で言った。 「プリンです」 「はっ?」  顔と言葉が不釣り合いすぎて、口をあんぐりと開いてしまった。  貴臣に似合わなさすぎる単語である。 「ぷ、プリンがどうしたんだよ」 「食べてしまったんです。秋臣のプリンを」 「はっ?」  また同じように口を開けると、貴臣は大袈裟にため息を吐いた。 「本当に、とんでもなくどうでもいいことで話さなくなってしまったんです。離婚が成立して、母親と秋臣が家を出ていく少し前のことでした。ある日、冷蔵庫を覗くとプリンがあったので、腹が減っていた小学6年生の俺はつい食べてしまったのです。しかしそれは秋臣が母親に頼んで買ってきてもらった、期間限定の特別なものだったのだと発覚しまして」 「ま、まさかそんなことで、秋くんはあんなにお前を毛嫌いしちゃってんの?」  貴臣がチラッと俺を見たので、ちょっと気まずくなりながらも秋くんからのメッセージを見せた。 『あいつの名前出すの、もうやめてね☆』という文面を見てショックを受けるかと思ったが、貴臣は特に顔色も変えずにもう1度ため息を吐いた。

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