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第39話 せつない兄弟
「もちろん謝りましたが、秋臣は許してくれませんでした。たぶん、喧嘩のきっかけは何でも良かったんだと思うんです。きっと火種は別のところにあったんでしょう」
「でも、それまでは仲良くしてたんだろ?」
「えぇ、ほどほどには。ですが母親の夜遊びが激しかったので、俺も秋臣も、穏やかではなかったかもしれません。秋臣はいつからか、小さな嘘を度々吐くようになりました」
あぁ、秋くんが嘘を吐く理由がなんとなく分かった。
嘘を吐けば、自分に注目してもらえるし、構ってもらえる。
秋くんはその頃からずっと、寂しかったのかもしれない。
「俺はずっと、秋臣が嘘を吐くのが面倒だなと思っていたんです。そんな幼稚な嘘、誰も騙されはしないと思って無視をしていましたが」
俺は毎回バッチリ騙されているってことは黙っておこう。
「相手にしなかったのが気に食わなかったのかもしれませんね。蓄積された俺への嫌悪感が、プリンを食べた日に、ついに爆発したのかも」
けど、喧嘩の内容が重くなくって良かった。
いつか無理やりにでも、2人が話す機会を作ってやろう。
それで貴臣がもう1度秋くんに寄り添って話を聞いてあげれば、きっと秋くんも許してくれる。問題は解消だ。
「大丈夫。俺がなんとかする。秋くんとまた、色々と話してみるよ」
「兄さんが?」
「いつもレッスンしてくれてるお礼」
「そんな、いいですよお礼なんて」
「遠慮すんなよ。俺、お前の兄ちゃんだし」
「そうですね。俺の……兄さんですよね」
なんだよ。なんでそんな切ない顔するんだよ。
こっちが泣きたいっての。
友達と付き合う予定なのに、エロいレッスンとかキスなんかしてきやがって。
あぁでも、俺も同じか。貴臣が好きなくせして、無理矢理好きだって思い込んだ先輩と付き合おうとしてる。
「おう。すぐには無理かもしれないけど、いつかちゃんと秋くんと話せる日がくるよ。俺が保証する」
「えぇ、ありがとうございます」
貴臣の唇が三日月みたいに弧を描いて、綺麗だなって思った。
今後、風邪を引いた時の口移しくらいはしてもらえるかな。いや無理か。いろんな感情が込み上がってきて、ふふっと笑えた。
「何笑ってるんですか」
「ううん、別に。やっぱ今日、レッスンしてもらおうかな」
「そうですか。いいですよ」
早くクリアできれば、早く貴臣が友人と付き合えるんだ。
その人だってきっと、貴臣が早く自分の元へ来てくれるのを待っている。貴臣の為にも頑張らなくちゃ。
「じゃあ今日は~……」
天井を見上げながら、先輩の性癖リストを思い浮かべる。
「目隠しプレイでも、やっちゃう?」
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