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第48話 秋臣の告白②
父さんの、子供じゃない?
咄嗟に、これはいつもの嘘だと思った。
でも秋くんはいつまでも表情を変えないので、嘘じゃないんだって悟った。
「びっくりした?」
「あ……うん、なんて言ったらいいのか」
秋くんと父さんが、家のリビングで笑顔で話していた場面を思い出す。
2人は表面上、血が繋がった親子のように見えた。
全く似ていないとは思ったけど、あまり気にならなかった。
貴臣と秋くんはそっくりだから、秋くんが単にもらわれっ子というわけではなさそうだ。
「本当のお父さんは、どこにいるの?」
「お母さんも分かんないって言ってた。行きずりだったんでしょ」
「そのことってどうして知ったの?」
「お母さんに直接言われた。離婚するちょっと前に」
俺は思わず頭を抱える。
その頃の秋くんといえば、まだ小学4年生だ。
そんな時期に親の不仲に加えて、本当は父の子ではないと告げられることの辛さ。自分がもし言われたらと思うと胸が痛む。
「なんかふつーに、今日の夕飯はハンバーグねー、みたいなノリだったよ。離婚したらどっちについていくか考えた時、初めは俺も怜くんたちと暮らそうと思ってたんだ。お兄と離れるのは寂しいって思ったし。だけどそんなこと言われたから、ちょっと考えたよね」
秋くんを、抱きしめてあげたくなった。
人の目もあるのでしなかったけど、腕をぎゅっと持ってあげた。秋くんは思ったほど悲しい顔はしていない。
「気づいたら、お母さんと一緒に暮らすって言ってた。夜遊びするところ以外は普通に好きだったし」
「貴臣は知ってるの? 秋くんのお父さんが違うこと」
「知らない。貴臣には内緒よって言われたから。お父さんもこのことを知ってるのかどうか分からない。怖くて聞けないよ」
「秋くん」
「あ、別に、そんな深刻な顔しないで笑って。お母さんはきっと、1人きりになるのは嫌だったから俺に言ったんだと思う。あの人、孤独に耐えられない人だから」
秋くんは気遣うように笑っている。
今はもう受け入れたけど、当時はきっといろんな思いを抱えていたはずだ。
なんの疑いもなく、ずっと自分の父親だと思っていたのに。
「貴臣だけずるいなって思ったんだ。指摘された通り、プリンのことはたまたま。お兄 は2人の子供なのに、俺だけ違う。お兄はお母さんが嫌いだったみたいで、お父さんとばかり喋ってた。それもなんか、気に食わないっていうか……あぁごめん、うまく説明出来ないんだけど、喧嘩の理由はこんな感じ」
俺は秋くんの頭をよしよしと撫でてあげた。
秋くんの悲しみを手のひらで吸い取ってあげるように。
秋くんはびっくりしていたけど、俺の手を振り払うことはしなかった。
「話してくれて、ありがとう」
「はは、怜くん、もしかして泣いてる?」
「泣いてないよ」
ゴシゴシと目蓋をこすると、手の甲が白く汚れた。
秋くんは、えらい。これまでずっと下手な嘘で誤魔化して、貴臣を傷つけないようにしてきたのだ。
俺がもし同じ状況だったらきっと言ってしまう。お前はいいよな、本当の息子で。
「怜くんの、そういう優しいところ、好きだよ」
秋くんはそう言って笑った。
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