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第76話 荒れる貴臣③*
「……本当のことを、教えてはくれませんか」
貴臣は相変わらず、視線を1ミリも離さない。
俺はやっぱり苦笑うしかなかった。
「本当のことって? 今言ったことが本当なんですけどっ?」
「それはあまり納得していませんが、分かりました。今訊いているのは、秋臣とのことです。さっきあの場所で、何を話して、何をされていたんですか」
ぎょっとして、唇をかんだ。
言えない。貴臣が好きだとか、秋くんが先生と別れて俺と付き合うだとか、そんな話。
「教えてくれれば、こちらも無理にレッスンを続けません」
「……」
ばくばくと心臓が鳴っている。
どうする? どうする?
ぐるぐると頭の中が渦巻く。
言葉がうまく出てこない。
「さ、されてないよ、何も……本当に、ちょっと揶揄われただけで」
「何を?」
「え、うーん……背、低いね、とか……」
全然ごまかせていない。
俺は貴臣と違って頭がすぐ回らないタイプなんだ。ピンチはピンチだし、それを『どうにかなるぜ!』と楽観的に考えられる奴の気が知れない。
「本当は?」
「……」
貴臣の硬い声に体が縮こまる。
かなりいらいらしているようだ。
「本当はって訊いてるんですよ。何を話していたんですか。俺が息を切らしていたら、秋臣が貴方の方を見て『これって』と言いましたよね。貴方がすぐに、その続きを制止した。あれは何だったんですか?」
「……」
「言わないと、酷くしますよ」
「えっ」
いつの間にか、貴臣の手にはピンク色の極太バイブがあった。
待って。それ挿れる気?
本来なら、この間も使った小さなローターでする予定だったのに。
待って待って。
──待てよ!!
「脅してんじゃねぇよ! 訴えるぞ!」
「言えばこれは使いませんよ。何を話していたんですか」
「……い」
「い?」
「……言えない」
貴臣が小首を傾げたまま、動かなくなった。
怖い。嵐の前の静けさだ。
「……へぇ、そう。そうですか」
「言えないけど、そんなに重要なことは話してねぇよ! 本当にどうでもいいこと……」
「重要か重要でないかはこちらで判別したかったんですが、言わないんでしたら仕方ないですね」
「あっ」
体をグルンと半転され、うつ伏せにされた。
拘束された両腕を押さえつけられたまま、腰の下に腕を入れられる。
「腰、高くしてお尻突き出して。ちゃんと見えるようにしてくださいね。奥までしっかりと挿れてあげますから」
がっしりと腰を掴まれて、持ち上げられた。
まるで獣のような体勢だ。羞恥でいっぱいになる。
俺は、間違っているのか? どう言ったら良かったんだ?
最後のレッスンが、まさかこんなに冷酷なものになるなんて。
貴臣と秋くんとの関係を修復させるどころか、余計に亀裂を入れてしまったような気がする。
それに加えて、俺たち義兄弟の関係も。
これが終わったら、俺たちはどうなるんだ。今まで通り、笑って過ごせるのか?
何もかもが不鮮明なまま、ただ枕に顔を埋めることしか出来なかった。
お尻が急にヒヤリとして「ひゃっ」と変な声が出る。
いつもマッサージで使っているオイルをいやらしく垂らされ、入口を貴臣の手がまさぐり始めた。
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