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第110話 くしゃくしゃの紙*

 秋くんは夕飯後、また来るねと言い残して中田家を後にした。「2人で一緒にいれる時間を大事にしてよ」と、なんとも大人っぽい言い方で言って行ってしまった。  風呂から上がった俺は、迷わず貴臣の部屋へ入った。  ベッドに腰掛けていた貴臣は、俺に向かっておいでおいでをしたので、その体に跨った。  遠慮なく太腿の上に腰を下ろし、向かい合わせでキスをする。  朝の続きをするみたいに、舌と舌を絡ませ、粘膜を擦り上げた。  名残惜しくも顔を離すと、目の前に手を差し出される。その中には、くしゃくしゃになった皺だらけの紙が。 「さっき掃除していたら、机の裏から出てきたんです。なんだと思いますか?」  その紙を受け取ってみる。なんの変哲もない用紙だ。A4サイズくらいの紙を潰して丸めたような。 「ゴミ?」 「開けてみてください」  え、なんか怖いな。見たら呪われる絵とか描いてないよな。  恐る恐るシワを伸ばして開いてみると、答えは分かった。  相良先輩の性癖リスト。  貴臣が自ら書き写し、最初のレッスンを始める際に壁に貼り付けてあった用紙だ。なぜこんな無残な姿に。 「丸めて投げ捨てたんです、俺が」 「え……どうして」 「全てのレッスンを終えた後、兄さんが部屋で先輩と電話していたのを聞いてしまって、やり切れなくなって。自分から2人のことを祝福しておいて、でも諦めきれない自分が嫌で惨めで、情けなくて。カッとなってこうしちゃいました」  今は笑って話しているけど、その時は相当辛かったはずだ。  秋くんと何をして何を話したのか気になるのに教えてもらえない。挙句、恋人の元へ行ってしまう兄。  本当は好きなのに言えなくて、表面上は取り繕わないといけない自分。  俺も同じだったから気持ちが痛いほど分かって、胸がぎゅっとなった。 「ごめんな、貴臣。もうそんな悲しい思いはさせないから」  その紙をポイと投げ捨て、貴臣にもう1度キスをする。  ぴちゃぴちゃと卑猥な音が鳴り、お互いの顔も体も火照ってきた。    自分から仕掛けたキスなのに、いつの間にか立場が逆転していた。舌を絡ませる側から、受けとめる側へ。歯列をなぞられ、濡れた舌先で上顎をこすられるとたまらなくなる。 「……は……っ……」  もぞ、と尻を動かすと玉がきゅっと潰れて切なくなり、吐息が漏れた。  腰を引いて浮かせると、貴臣は自分の体に俺を引き寄せた。  何度か擦り付けるように腰を上下されると、俺のペニスと貴臣とのが刺激され、ジンジンとした甘い痛みが駆け抜ける。   「あ……んん……っ」  意地悪。  俺がそんなんじゃ足りないって分かってて、貴臣はわざとゆっくりと腰を振っているのだ。  もっと上下するスピードをはやく、乱暴でもいいのに。  自分で触りたい気持ちを押し留め、代わりにまた熱い舌を絡ませた。 「ん──……ん、ん……」  ぞくぞくする。ドキドキする。  貴臣という存在が愛しくて。  次に唇を離した時には、ペニスはしっかりと硬くなり、布を押し上げていた。 「はぁ……っ」 「兄さんは本当に、感じやすいですね」 「あっ!」  乳首を爪で引っ掻かれて、びくんと体が跳ね上がる。もう1度されると、また。音で反応する玩具みたいに、される度に何度も喘いだ。 「自分ではいじってないって初めは言ってましたけど……ここもしっかりと性感帯の1つになりましたね」  薄い布の上から親指の腹でぐにぐにと潰されると本当にやばい。  電流が流れる。柔らかさはなくなって、あっという間に芯を持って硬くなった。

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