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#3 sei's prescription

「あ、結人!久しぶりなんじゃない?」 「うん、まぁね」 「何だよ、その余裕に満ち溢れた顔は。さては、彼氏ができたな?」 「へへっ、当たり!誠次さんには敵わないなぁ。なんでもお見通しだ!」 「当たり前だっつーの!何年、結人の恋愛遍歴を見せられてると思ってんだよ」 二丁目にあるBAR、〝スラッガー〟 オープンにしている人も、そうじゃない人も。 一夜限りでも、そうじゃなくても。 相手を求めてゲイの面々が集う店。 俺が、この店の雇われ店長をしてン年。 何十人って常連さんの恋愛を目の当たりにしてきた。 大恋愛から修羅場まで。 かくいう結人も、どちからといえば全く実らない恋愛を繰り返して………弟みたいに親近感を持っていたせいか、勝手にその生き方を心配していた一人だったんだ。 それが、なんと! 彼氏ができた、だと!? 幸せオーラ、ダダ漏れな顔しやがって。 兄ちゃんは嬉しいよ、涙。 「馴れ初めは?どうやって知り合ったの?店じゃないよね」 「うん、実はね……」 言葉を濁した結人が、紙製のコースターにジャケットの胸ポケットから取り出したボールペンを走らせて、俺の質問に答えた。 〝happy prescription siteー。あなたのお望みどおりを処方します。次の質問にお応えください〟 ………結人が言ったとおり。 怪しさ満点だな、本当。 『いくつかの質問に答えたら、僕にピッタリの相手を見つけてくれる出会い系サイトで知り合ったんだ。出会って幸せになって、そうしているうちにそのサイトを見つけられなくなっちゃってさ』 ………すんなり、見つかったぞ?結人。 『誠次さんにだけ、教えてあげる。僕のこと、いっつも心配してくれたでしょ?だから、お礼。誠次さん、いつも〝恋人が欲しい〟って言ってたから。誠次さんにも幸せになって欲しいんだよ、僕』 我が心の、弟よ………泣かすようなこと言うなよ。 少々、ジャイアンチックな感動をしてしまったのにも訳がある。 俺は、ゲイだ。 モテたくて、雇われ店長なんてやってんのに。 そもそも夜の仕事じゃ、一般的な昼に働く相手とじゃ、ライフスタイルが違いすぎて長続きしないし。 人様の恋愛を応援したり、心配したりしているうちに、店の客からも従業員からも恋愛の対象から外れてしまった感が否めない。 面倒見のいい、父親か兄貴みたいな、そんなトコ。 だからキスはもちろん、人肌に触れることすら遠い記憶になってしまった。 このまま一生………一人なんじゃないかって不安と焦りに押しつぶされそうになって。 一人部屋でテレビを見ている自分に、現実味を感じない。 夢か、現か。 そんな気持ちも切羽詰まって限界なのにもかかわらず、怪しげなサイトを目の前にしてもグズグズして煮え切らない俺がいる。 『誠次さんにも幸せになって欲しいんだよ、僕』 結人の言葉と、顔が胸に突き刺さる。 ………ま、やってみっか。 上手くいっても、いかなくても。 それが俺の人生だ。 腹を括って、俺はスマホの画面にそっと触れたんだ。 「セイさんですか?」 「はい………。ケイさん?」 待ち合わせ場所に現れたケイと名乗ったその人は、顔を赤らめて恥ずかしそうに頷いた。 にしても………めちゃめちゃ若く見えるのは気のせいだろうか………? 「あの、ケイさん?」 「はい」 「おいくつですか?」 「………今日で、ハタチになります」 は、は………二十歳!! 俺と一回り以上離れてる………。 そりゃ、めちゃめちゃ可愛いよ? 色白で色素の薄い大きな目とか、柔らかそうな肌とかさ、かなり、どストライクだよ? どストライクだけど………いいのか?!俺!! 人としての道を踏み外したりしないか?! 犯罪を犯したりしないか?! 「俺みたいなオジサンで、ガッカリしたんじゃない?」 「い、いえ!!セイさんこそ!僕みたいなのが来て、幻滅したんじゃないですか!?」 そんなこと、ある訳なかろう。 嬉しい、だけど。 無駄にとった年と、無駄に増えた経験値が、素直に喜ぶという行為の邪魔をする。 でもせっかく出会ったし、何よりこの子の笑顔をもっと見たいと思ってしまったんだ。 「ケイさん、今日誕生日ですよね?」 「はい」 「せっかくだから、誕生日のお祝いをしませんか?」 「え?」 「記念すべき二十歳の誕生日が、こんなオジサンと一緒なんてツイてないだろうけど。これも何かの縁だし、どうですか?」 「いいんですか?!本当に?!」 ………満面の笑みで食いついてくるケイに、俺のミッションは早々に達成してしまった。 そんな反応されると、嬉しくなっちゃうだろ! 初めて大人の仲間入りをしたケイに、大人になった気分を味わわせてあげたかった。 甘いものが好きというケイを、美味しいケーキをだす隠れ家的なカフェに案内したり。 ビリヤードがしてみたいと言ったケイをプールバーに連れて行って、ついでに軽めのお酒で乾杯したり。 年甲斐もなく楽しくて、嬉しくて、時間が経つのはなんてあっという間で。 ケイの誕生日を祝うハズなのに、俺のいい思い出になってしまって………。 楽しかった、本当に………楽しくて、幸せすぎて、今死んでもいいと思った。 「あー!楽しかったーっ!ありがとうございます、セイさん!!」 「俺も!ケイさんの誕生日なのに、俺が楽しんじゃったら本末転倒なんだけどね」 「あ、あのセイさん!!」 「何?ケイさん」 「今から………セイさんの家に行ったらダメですか?」 は?……はぁ??………はぁぁ??? 「………もう遅いし、帰ったほうが」 「僕の誕生日なんです!!僕のわがまま、もう一つだけ聞いてもらえませんか?」 「…………ケイさん」 「お願いします!セイさん!!」 「………わかったよ。いいよ、おいで。ケイさん」 そう、俺が言い切るか否や。 ケイは俺の心臓に矢のように突き刺さる笑顔で、俺の腕にその華奢な腕を絡めた。 他人を家に呼ぶなんて、何年ぶりだろう。 ましてや今日会ったばっかりの、初対面でまだ会話に幾分ぎこちなさの残る相手を、家に招き入れるなんて。 ………騙されてんのかな、俺。 でも、さ。 例えケイが昏睡強盗だったとしても、美人局だったとしても、俺はそれで良いかな?なんて思ってしまった。 だって、さ。 楽しかったんだよ、久しぶりに。 ケイの笑顔を見れただけでも、幸せで。 刺激のなかった日常が一気に花開く感じがして、楽しいこの思い出だけで十分だと思ったんだ。 「オシャレな部屋。大人の人って感じ」 「そう?帰って一人寝るだけの部屋だし。なんもないでしょ」 少し緊張した面持ちながらも、ケイはニッコリ笑ってソファーに腰掛ける。 「なんか、飲む?」 「セイさん、ちょっとここに座って」 ケイに促されるまま。 俺ん家であるハズなのに妙にドキマギして、俺はソファーに腰掛けた。 「セイさん、今日はありがとうございました。 すごくステキなハタチの誕生日になりました。 ………僕、ずっと自分を恥じてたんです。 男なのに、心惹かれるのはいつも男の人で。 誰にも言えなかった。家族にも友達にも、誰にも。 だから、ハタチの誕生日には自分の本当をさらけ出してみよう、ってずっと思ってたんです」 素直で、ストレートで。 嘘か?と疑ったけど、ケイの瞳や表情は嘘をついてる感じがしなくて、無意識のうちに俺はケイに見入ってしまっていた。 「贅沢は言わないから、僕の理想の人とハタチの誕生日を過ごせたら………。 嘘でもいいから、一度でいいから、僕を愛して欲しくてあのサイトを開いたんです。 でも………理想のど真ん中のセイさんが、僕の想像以上に優しいから………僕、セイさんを好きになってしまいました」 「ケイ……さん」 「好きです。セイさん」 その瞬間、ケイの瞳からオーバーフローした涙が溢れ出した。 「さっきの店で、準備したんです。………僕を抱いてください」 騙されてるかもとか、一瞬でも疑った自分が恥ずかしい。 いい大人の無駄な経験値が、ケイの素直な気持ちを苦しくさせていたんだ。 じゃあ、俺は………ケイの気持ちに、答えなきゃ。 「こんなオジサンがなんなんだけど………。俺もケイさんが好きだ。でも、俺はかなりズルい大人なんだよ?」 「………え?」 「これっきりにしたくない。ケイさんと離れたくない。ケイさんを帰したくない。これからもずっと一緒にいたいって思うくらい、俺はズルいんだよ」 「………セイさん」 どちらからともなく、互いの体に腕を回して体の距離を詰めると、顔を近づけてキスをした。 ………初々しい、拙いキス。 大人ぶって、背伸びして。 俺のキスに合わせようと必死についてくるケイに、俺の理性は崩壊寸前になってしまったんだ。 「んぁ……やん……あぁ」 硬くなった小さな胸の膨らみを舐めても。 首筋にキスをしても。 ケイの感度が良すぎて、もっと色々ヤリたくなってしまう………。 俺、こんなにエロかったか? 久しぶりに重ねた肌に興奮しているのか。 はたまた、初体験よろしく感じまくるケイに触発されたのか。 自分のエロオヤジ度全開に、クスリかなんかキメでんじゃないかってくらい戸惑ってしまった。 「セイ……さ……、中、とって……」 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、自ら足を広げて露わになったケイの秘部に、さっき準備したと思われるアナルプラグが差し込まれている。 ………かなりエロいだろ、これ。 今すぐぶち込みたい衝動を、ガタガタの理性で押さえ込んで、アナルプラグを抜いたと同時にローションを手にとって、ケイの中に指を入れた。 「あっ……あぁ、あ」 指を抜き差しするたびに、中のコリッとする部分を弾くたびに。 ケイがかわいい声で喘いで、よがって。 体を大きくしならせて、全身で飲み込まれそうになる快楽を表現する。 ………あぁ、ヤベ。 俺、もたねぇよ。 「セイさ……んっ!………もう、いい………入れて……ぇ」 ………そんな、言われたら。 ………そんな、おねだりされたら。 俺の理性ってのは、木っ端微塵に砕けちってしまうじゃないか。 「ケイ……足、自分で持ってて」 ケイの腰の下にクッションを滑り込ませると、久々すぎてガチガチになった俺のムスコを、ゆっくりケイの中に挿入れた。 「あん……あ、あぁ!!あっ、やぁ、あぁっ!!」 ケイの声がさっきより大きくなって、体がビクつくほどに反り上がる。 感度、すげぇ。 なんて、感心してる場合じゃないよ。 ケイの中は熱くて、絡みつくように俺を締めあげて、つい反動でケイのを手で擦った。 「んぁ、あん……中出して………一緒に、イキたい。セイさ………セイ…さんっ」 「………ケイっ!!」 俺から溢れ出た熱いものが、ケイの中を満たして。 ケイのキレイな腹に白い飛沫が舞う。 見つけた、愛しい人。 ………諦めていた俺に、幸せを運んできてくれた愛しい人を………俺は見つけたんだ。 「誠次さん、顔がなんだかツヤツヤしてる」 アツアツ具合を見せつけるかのように、彼氏と一緒に来店した結人が、ニヤニヤしながら俺に言った。 「お?わかる?」 「さては?」 「あぁ、できた。恋人」 「えーっ!?本当に?おめでとう!!ねぇ、どんな人?」 「内緒」 「誠次さん、イジワルだなぁ!じゃあ、今度さ。ダブルデートしようよ!」 結人がなんと言おうと、俺にその気はない! キッパリ言おう! ケイ……圭太は俺のだから! と、いうのも。 大学生の圭太と俺はつい先日から、同棲している。 いわば、幸せの絶頂。 仕事が終わったら、「誠次さん、おかえり」って言う圭太に会いたいし。 朝は、「圭太、いってらっしゃい」って、笑顔の圭太を見送りたいし。 つい最近まで、一生一人なんじゃないかって不安に駆られていた俺が信じられない。 あの、変なサイトのおかげだな。 幸せだ………本当に。  「あ、誠次さん!今、恋人のこと考えてるでしょ?顔、顔!ニヤつきすぎ」

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