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第十二章・8

「瑠衣」 「な、何?」  身体を痙攣させながら、瑠衣は首を後ろに向けて寿士を見た。 (好きだよ)  そう、言おうか。  だけど。 「いや、何でもない」 (また、逃げた)  俺は、逃げる。  誰より愛しいはずの瑠衣に、愛の言葉を囁いてあげない。  そんな臆病な自分を、責めた。  代わりに、力いっぱい抱きしめた。 「寿士さん」 「なに?」 「好きだよ」 「ありがと」  俺も、とは言えなかった。  臆病なまま、瑠衣の温もりだけを手にしていた。

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