105 / 152
第十二章・8
「瑠衣」
「な、何?」
身体を痙攣させながら、瑠衣は首を後ろに向けて寿士を見た。
(好きだよ)
そう、言おうか。
だけど。
「いや、何でもない」
(また、逃げた)
俺は、逃げる。
誰より愛しいはずの瑠衣に、愛の言葉を囁いてあげない。
そんな臆病な自分を、責めた。
代わりに、力いっぱい抱きしめた。
「寿士さん」
「なに?」
「好きだよ」
「ありがと」
俺も、とは言えなかった。
臆病なまま、瑠衣の温もりだけを手にしていた。
ともだちにシェアしよう!

