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スラフの独白 1

 俺はスラフ。小さな村の農家の4子だ。北の国、ラーン王国では農作物の収穫は労力に対して実りは少ない。所有している畑を継ぐのはメイルの長子のみで、そのほかの子供は基本的に家を出る。早いうちにどこかの職人の家に弟子入りするか、奉公に行くか、それとも、冒険者になるか、だ。  冒険者はラーン王国の場合、ダンジョンが初級クラスの一つしかないため、他の国に比べると少ない。ただ、護衛クエストは多いので騎士希望で見習い試験に受からなかった者が、次善の職業として選ぶ場合が多い。他国とは少し趣が違う。冒険者に発注されるはずの魔物討伐は騎士団の任務となっているからだ。  俺は5歳の時、村を訪れた騎士に憧れた。それ以降、騎士になりたくて俺は村では畑を手伝う傍ら、狩人について回り、修行させてもらっていた。ただ、俺の適正は弓ではないようでなかなか上達はしなかった。  狩人の修行は、森の歩き方と、獲物の捕らえ方、魔物への警戒、討伐の仕方を幼いながらも、叩き込んでくれた。罠の張り方を学んだのもこの頃だ。  弓が下手な俺にできることと言えば罠ぐらいだったからだ。  剣を練習するということは難しい。子供の俺は畑の手伝いと狩人の修行でいつもくたくたで、すぐ寝てしまっていたからだ。それでも、成長していくうちに体力が上がり、薪割りは得意になった。  住んでいた家は小屋レベルで木でできていた。隙間風が入ってきて、冬は寒く、降り積もった雪で壊れそうなくらいだった。その家の修理でハンマーを使うことが多かった。だからのちに俺の得物は槌になった。  10歳の頃、また騎士に出会った。昔来た騎士ではなかったが、憧れの目を向けていたら見習い試験のことを教えてくれた。その騎士たちはしばらく滞在し、魔物討伐と壊された村の建物や畑の復旧をしてくれた。  その間に俺は試験の内容と、必要な知識と武芸を身に着けるための方法を教えてもらったのだ。  俺が騎士になれば仕送りもできるし、食い扶持も減る。そのために頑張って修行と勉強、旅費を貯めるため、いろんな頼まれ事を熟したりした。  見習い試験は12歳から受けられるが、俺がその年になっても、旅費はたまらなかった。この村から王都まで一週間かかるのだ。しかも護衛のいる馬車でないといけない。村の外は子供の命など、風前の灯火だ。13歳になってやっと、金がたまり、見習い試験を受けに王都へ行き、何とか一度で受かった。  見習いはメイルとフィメルに別れて宿舎にはいり、騎士としての知識や技術を身に着ける。平民と貴族はカリキュラムが違うようで平民は平民だけで、指導された。  同期は年齢がばらばらだったが大体12~15歳に収まっていた。最年少は一人だけでメルトというフィメルだった。  同期で仲良くなった二人は同室だった。  ロステとリスクだ。  ロステはやや内気な少年で、リスクは社交的な少年だった。  最初は座学や基礎訓練ばかりでメイルもフィメルも一緒くたに訓練を受ける。それが年を重ねるごとに子供から大人へと変化していき、体力や、体型に差が出てくる。そして、フィメルとメイルの性差がはっきりしてくるのだ。  3年もたてばメイルはみな色気づいた。  ロステはメルトに一目ぼれした様子で、何かと声をかけては玉砕をしていた。  メルトは騎士に憧れて正騎士になるためにほとんどすべての時間を使っている様子で、無口で無愛想だと評判だがメイルもフィメルも分け隔てなく接する子だ。  綺麗な金髪、零れそうな綺麗な翠の目。細身でしなやかな手足に透けるような白い肌で、メイルの中では意外に人気があった。着替えの時、盗み見ている奴が相当数、いるのも知っている。  そして周りのフィメルが壁になることも知っているから、俺は見ないようにしている。そもそも、着替え中のフィメルを見るのは失礼すぎる。  しかしながら、ロステが毎回玉砕するので、なんとなく同期の連中は、ロステを応援する雰囲気で、誰もメルトには誘いをかけなかった。 「もう、諦めたら?メルトは全然脈ないと思うけど。大体、わかるように誘ってんのか?」  リスクは細身で、イケメンという、フィメルにもてるタイプだ。本人も休日にかわるがわる、遊びに行っているがお茶くらいで本格的に手を出しているわけではないようだ。 「え、わかるだろ?メイルが休日二人っきりで出かけようっていうんだから。」  キョトンとした顔でロステが答えるのを聞いて、俺とリスクは頭を抱えた。  ロステは典型的なラーンのメイルだ。フィメルに言葉はいらないと思うタイプだ。  見合いで結婚していた時代ならいざ知らず。今時好きだ付き合ってくださいと言わないで、何をわかってもらえるのか。  割と、周りはそう思っているがロステは気付かないようだ。ちらほらと遠回しに今のリスクのように助言はするがそれもわかってないようだった。  ロステが休日の前日に毎回メルトに声をかけるから、俺とリスクはそれを見守ってしまう。そして俺は気になるフィメルができた。  メルトといつも一緒にいるミランだ。  赤味がかった金髪で、灰色の目の小顔で、可愛い感じの顔をしている。くるくると変わる表情は見ていて飽きない。世話焼きなのか、良くメルトの面倒を見ている。  メルトは剣や騎士の訓練以外の事柄に関してはどうも不器用なようだった。それに魔法が使えない。魔力がないということではないが使うことはできず、よって浄化の魔法も使えない。もちろん、シャワーの設備はあるのだが夏場しか使えないし、水不足の時は使用禁止になる。そこをどうやらフォローしているようだった。 「メルトが!メルトがいなくなっちゃった…うそぉ…」  ミランの悲痛な叫びがダンジョンに響いた。

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