8 / 11

見習い騎士と大賢者はダンジョンで運命と出会う~IF編 デート~

 俺達は中央広場から市場へ向かう。  年の瀬で、そこは賑わっていた。  新年を迎えると、1週間は休日になる。  王都では新年の式典が行われ、その時はお祭り騒ぎだが、それを除くとしばらくの間、市場や商店は閉まってしまうので、その間過ごすための物資の買い出し客だ。  王都に出稼ぎに来ている、近隣の村に住むものも、新年は故郷で過ごすために、土産物を買いに来てたりもする。  犯罪が多くなるのもこの頃で、第一騎士団の騎士が巡回している。  白の団服に防寒用のマントを羽織った姿は、俺の憧れだ。  そうして俺が騎士たちを見ていると、ヒューが手を引っ張った。  それに気付いてヒューの方を向く。 「メルトは休暇はいつまで?」 「一応新年の7日まで。でも6日に宿舎へは戻ろうと思っているけど……」  ちらっと隣を歩くヒューの顔を見上げる。にこりと笑ったヒューに見惚れた。 「そうなんだ。じゃあ、それまでは毎日会えるね。新年は一緒に過ごそう。新年のカウントダウンにお邪魔することになってるし……誕生日を祝えるね。」  蕩けそうな笑顔で言うヒューに頬が熱くなる。 「うん。」  市場の人込みに分け入ると、威勢のいい掛け声が四方八方から飛んでくる。 「賑わってるね。」 「うん。一番人出があるところじゃないかな?」  異国の物や、食材、雑貨などいろいろなものが並べられている。冬なので、果物とかはあまり見かけないが、それでも色鮮やかなリンゴなどが屋台いっぱいに乗っている。 「何か買おうかな。新年はしばらく市場は休みになるんだよね?」 「うん。拝謁式……騎士団が街を行進して、王に拝謁する式典があるんだけど、その式典の時は見物客目当ての屋台が軒を連ねるけど、それが終わると、しばらくどこの店も休業になるかなあ……」 「メルトが騎士に憧れたきっかけの式典?」 「そうなんだ。すっごくかっこよかった。」 「じゃあ、メルトが騎士になったらメルトもそれに参加するってこと?」 「うん。」 「それは見ないと。」  話しながら歩いていると、いい匂いがしてきた。途端にお腹が鳴った。  ヒューの前なのに。  恥ずかしさに赤くなってると、ヒューに手をぎゅっと握られた。 「あっちにおいしそうなの、売ってるよ。」  引かれて食べ物を売っている屋台の列に連れてこられた。スープや肉の焼けたいい匂いがする。 「なんか食べようか?」 「うん! 肉がいい!」 「育ち盛りだものね。いっぱい食べなきゃ。成長期にしっかり身体を作らないと、ね。」  くすくす笑いながら、ヒューがすぐ食べられるものを売っている屋台の列に、連れて行ってくれた。  そういえば、こういうところを見て歩くのも久しぶりだ。  大抵、鍛錬で休日は潰れてしまっていたから。  ヒューと再会しても、最終試験が終わるまでは、鍛錬に付き合ってもらっていて、こんな風に出歩かなかった。  正騎士になれば、結婚もするから、ずっと一緒にいられる。もう少しの我慢だ。 「すみません、その串を二つ。」  ヒューが、串焼きを買ってくれた。人があまり通らない道の端によけて、かぶりついた。 「美味しい。塩味きいてる。」  塩もラーンではそこそこする。内陸の上、北なので香辛料は高いのだ。 「酒のつまみにするといい感じだな。」 「お酒かあ。まだ飲んだことない。」 「そうか。正騎士になったら、お祝いにワインで乾杯しようか?」 「お祝い……」  正騎士に、なれるだろうか。卑怯な手も使われたし、勝ち越しはしたが、正直自信はないのだ。 「そうだよ。正騎士姿、早く見たいなあ。」  じっと見られて思わず口を拭った。 「浄化。」  食べ終わったらヒューが浄化してくれた。いつも思うけど、魔力が凄く気持ちいい。  それから何軒か、買い食いをして(全部ヒューが買ってくれた)服を見よう、ということになった。  あまり私服を持ってないから、と口を滑らせてしまったのだ。  そして今、俺は初の徹底した採寸にびっくりしている。  結婚式に着る服もついでに作ろうかと、そう言われてこういうことになった。  そもそも平民は服は作らない。  手作りか、中古を買うのだ。布自体が高いから中古が多い。  ヒューも採寸して、揃いで作ることになった。  それから、出来合いで、サイズ変更ができる服を買ってくれた。  上から下までとコートをセットにしたのを3組も買ってくれて、俺の目を白黒させたが、まだ少ないと、ヒューは満足してなかった。  これだって、プレゼントだ。なのに、ヒューはこれは誕生日プレゼントではないという。  屋台で買ってくれた串焼きレベルらしい。  ヒューってすごい冒険者だから、お金持ちなのだろうか。いや、貴族とか言ってたからそっち?  なんだか、金銭感覚が崩壊しそう。  お昼はヒューが“エルフの森”っていう、庶民憧れのレストランに連れて行ってくれた。  俺でも名前を知っている有名店だ。  すっごく美味しかった。  ヒューの料理とは違う美味しさだった。  この店のことは、ハディーに教わったらしい。  そのあとは宝飾店に来た。 「指輪とかはどう?」 「剣を握るから、違和感のないものとかじゃないと……」  高価な宝飾品に俺は及び腰になっていた。高価な宝石のついた指輪はちょっと遠慮したい。 「そうか。じゃあ、イヤーカフとか、どうかな? お揃いでつけたい。」  お揃い……。思わず頷いてしまった。  それから、いろいろ選んで、お互いの瞳の色のイヤーカフにしようということになった。  値段のことは忘れることにした。  夕方になって冷えてきた。ブルっと震えると、ヒューのマントの中に抱き込まれた。  ええ? 「これならあったかいだろう?」  顔がみるみる熱くなっていく。どうしよう。胸がものすごくドキドキ言ってる。 「あ、あったかい、けど……ええっと……」  思わず声が裏返った。  周りを思わず見まわして、リスクとロステを通りの端に見つけてしまった。  あー……きっと、休み明けにからかわれる。  何故だか、ロステが崩れ落ちてたけど、大丈夫かな。  俺の視線に気づいたのか、ヒューもそっちを見た。 「あの二人、同期の騎士見習いって言っていたな。」 「うん。」 「もっと仲いい所見せつけようか。」 「ダ、ダメ。人前はダメ。恥ずかしくて死にそう。」  もう顔が熱くて困る。 「そろそろ、帰る時間だな。行こう。」  マントから出してはもらえずに、家に戻った。  また、雪がちらついてきて、ますます寒くなった。 「ただいま。」 「お邪魔します。」  扉を開けると、騒がしい声が聞こえた。何かが目の前に飛び出してきた。 「おかえり~! メルト!」  一番上の兄、ルティだった。 「ルティ、帰ってきてた?」 「うん。ティーメもね。」  顔をずらしてテーブルを見た。手を振っている。 「今年はにぎやかだよ。ルティの伴侶も来てるからね。」  ルティが俺を離してくれて、ようやっと奥に向かう。  その間にヒューは挨拶を済ませていた。 「じゃあ、夕飯にしようか。」  ダッドの声で、食事が始まった。

ともだちにシェアしよう!