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見習い騎士と大賢者はダンジョンで運命と出会う~IF編 デート~
俺達は中央広場から市場へ向かう。
年の瀬で、そこは賑わっていた。
新年を迎えると、1週間は休日になる。
王都では新年の式典が行われ、その時はお祭り騒ぎだが、それを除くとしばらくの間、市場や商店は閉まってしまうので、その間過ごすための物資の買い出し客だ。
王都に出稼ぎに来ている、近隣の村に住むものも、新年は故郷で過ごすために、土産物を買いに来てたりもする。
犯罪が多くなるのもこの頃で、第一騎士団の騎士が巡回している。
白の団服に防寒用のマントを羽織った姿は、俺の憧れだ。
そうして俺が騎士たちを見ていると、ヒューが手を引っ張った。
それに気付いてヒューの方を向く。
「メルトは休暇はいつまで?」
「一応新年の7日まで。でも6日に宿舎へは戻ろうと思っているけど……」
ちらっと隣を歩くヒューの顔を見上げる。にこりと笑ったヒューに見惚れた。
「そうなんだ。じゃあ、それまでは毎日会えるね。新年は一緒に過ごそう。新年のカウントダウンにお邪魔することになってるし……誕生日を祝えるね。」
蕩けそうな笑顔で言うヒューに頬が熱くなる。
「うん。」
市場の人込みに分け入ると、威勢のいい掛け声が四方八方から飛んでくる。
「賑わってるね。」
「うん。一番人出があるところじゃないかな?」
異国の物や、食材、雑貨などいろいろなものが並べられている。冬なので、果物とかはあまり見かけないが、それでも色鮮やかなリンゴなどが屋台いっぱいに乗っている。
「何か買おうかな。新年はしばらく市場は休みになるんだよね?」
「うん。拝謁式……騎士団が街を行進して、王に拝謁する式典があるんだけど、その式典の時は見物客目当ての屋台が軒を連ねるけど、それが終わると、しばらくどこの店も休業になるかなあ……」
「メルトが騎士に憧れたきっかけの式典?」
「そうなんだ。すっごくかっこよかった。」
「じゃあ、メルトが騎士になったらメルトもそれに参加するってこと?」
「うん。」
「それは見ないと。」
話しながら歩いていると、いい匂いがしてきた。途端にお腹が鳴った。
ヒューの前なのに。
恥ずかしさに赤くなってると、ヒューに手をぎゅっと握られた。
「あっちにおいしそうなの、売ってるよ。」
引かれて食べ物を売っている屋台の列に連れてこられた。スープや肉の焼けたいい匂いがする。
「なんか食べようか?」
「うん! 肉がいい!」
「育ち盛りだものね。いっぱい食べなきゃ。成長期にしっかり身体を作らないと、ね。」
くすくす笑いながら、ヒューがすぐ食べられるものを売っている屋台の列に、連れて行ってくれた。
そういえば、こういうところを見て歩くのも久しぶりだ。
大抵、鍛錬で休日は潰れてしまっていたから。
ヒューと再会しても、最終試験が終わるまでは、鍛錬に付き合ってもらっていて、こんな風に出歩かなかった。
正騎士になれば、結婚もするから、ずっと一緒にいられる。もう少しの我慢だ。
「すみません、その串を二つ。」
ヒューが、串焼きを買ってくれた。人があまり通らない道の端によけて、かぶりついた。
「美味しい。塩味きいてる。」
塩もラーンではそこそこする。内陸の上、北なので香辛料は高いのだ。
「酒のつまみにするといい感じだな。」
「お酒かあ。まだ飲んだことない。」
「そうか。正騎士になったら、お祝いにワインで乾杯しようか?」
「お祝い……」
正騎士に、なれるだろうか。卑怯な手も使われたし、勝ち越しはしたが、正直自信はないのだ。
「そうだよ。正騎士姿、早く見たいなあ。」
じっと見られて思わず口を拭った。
「浄化。」
食べ終わったらヒューが浄化してくれた。いつも思うけど、魔力が凄く気持ちいい。
それから何軒か、買い食いをして(全部ヒューが買ってくれた)服を見よう、ということになった。
あまり私服を持ってないから、と口を滑らせてしまったのだ。
そして今、俺は初の徹底した採寸にびっくりしている。
結婚式に着る服もついでに作ろうかと、そう言われてこういうことになった。
そもそも平民は服は作らない。
手作りか、中古を買うのだ。布自体が高いから中古が多い。
ヒューも採寸して、揃いで作ることになった。
それから、出来合いで、サイズ変更ができる服を買ってくれた。
上から下までとコートをセットにしたのを3組も買ってくれて、俺の目を白黒させたが、まだ少ないと、ヒューは満足してなかった。
これだって、プレゼントだ。なのに、ヒューはこれは誕生日プレゼントではないという。
屋台で買ってくれた串焼きレベルらしい。
ヒューってすごい冒険者だから、お金持ちなのだろうか。いや、貴族とか言ってたからそっち?
なんだか、金銭感覚が崩壊しそう。
お昼はヒューが“エルフの森”っていう、庶民憧れのレストランに連れて行ってくれた。
俺でも名前を知っている有名店だ。
すっごく美味しかった。
ヒューの料理とは違う美味しさだった。
この店のことは、ハディーに教わったらしい。
そのあとは宝飾店に来た。
「指輪とかはどう?」
「剣を握るから、違和感のないものとかじゃないと……」
高価な宝飾品に俺は及び腰になっていた。高価な宝石のついた指輪はちょっと遠慮したい。
「そうか。じゃあ、イヤーカフとか、どうかな? お揃いでつけたい。」
お揃い……。思わず頷いてしまった。
それから、いろいろ選んで、お互いの瞳の色のイヤーカフにしようということになった。
値段のことは忘れることにした。
夕方になって冷えてきた。ブルっと震えると、ヒューのマントの中に抱き込まれた。
ええ?
「これならあったかいだろう?」
顔がみるみる熱くなっていく。どうしよう。胸がものすごくドキドキ言ってる。
「あ、あったかい、けど……ええっと……」
思わず声が裏返った。
周りを思わず見まわして、リスクとロステを通りの端に見つけてしまった。
あー……きっと、休み明けにからかわれる。
何故だか、ロステが崩れ落ちてたけど、大丈夫かな。
俺の視線に気づいたのか、ヒューもそっちを見た。
「あの二人、同期の騎士見習いって言っていたな。」
「うん。」
「もっと仲いい所見せつけようか。」
「ダ、ダメ。人前はダメ。恥ずかしくて死にそう。」
もう顔が熱くて困る。
「そろそろ、帰る時間だな。行こう。」
マントから出してはもらえずに、家に戻った。
また、雪がちらついてきて、ますます寒くなった。
「ただいま。」
「お邪魔します。」
扉を開けると、騒がしい声が聞こえた。何かが目の前に飛び出してきた。
「おかえり~! メルト!」
一番上の兄、ルティだった。
「ルティ、帰ってきてた?」
「うん。ティーメもね。」
顔をずらしてテーブルを見た。手を振っている。
「今年はにぎやかだよ。ルティの伴侶も来てるからね。」
ルティが俺を離してくれて、ようやっと奥に向かう。
その間にヒューは挨拶を済ませていた。
「じゃあ、夕飯にしようか。」
ダッドの声で、食事が始まった。
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