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第1話

 ふと、金木犀の香りがした。その方向に目を向けたら、男がいた。垂れ目の、何となく甘ったるい顔の男が、女にビンタを食らう瞬間だった。  俺は、普通に噴き出した。  ***  「けーすけー。教科書かーしてー。」  「……またか。」  「またなのだ。」  「今度は誰だよ。」  「誰だったかなー……今日こっちも同じ授業案の忘れててさー。」  「覚えるか、携帯で撮れよ。」  「それなー。」  金木犀の香りがする男を『叩いた側』の女は、2年になると別のクラスになった。名前は篠宮渚と言った。  「渚ー?どったの?」  俺の後ろから、ふわりと季節外れの金木犀香りが届いた。『ビンタされた側』の男。三枝レオン。正真正銘のハーフ。だが、自信は海外なんて行ったことが無いし、母親の親族はおらず、楽しそうな顔で両親が駆け落ちである事を喋ったのはビンタ事件のすぐ後だった。生粋の日本人だし、日本語しか話せないそうだ。両親は話せるとも言ってた。  「古文の教科書借りに来ただけー。」  「また忘れたの?」  「忘れたってか、自分のクラスもあるの忘れてた。」  詳しく聞くと、貸した相手は古文の後は体育だったらしく、返しに来れないとの話だったらしい。それに対し明日で良いと言ってしまった。との事だった。……ば「ばっかでー。」心の声を、後ろからレオンが言ってくれた。  「……あ"?」  般若が出た。  「え、こわ。」  「チャイム鳴るぞ。」  仲裁代わりに古文の教科書を篠宮に渡す。篠宮は般若の顔を一瞬で引っ込め、にこやかに感謝を述べ隣のクラスに入って行った。  「レオ、お前は人の耳元で話すのを止めろ。」  「嫌だね、圭介が良い香りかもしてるのが悪い。」  「だから、柔軟剤だっての。うざってぇから離れろ。」  「いーやーよー。」  へらへらしてる顔を毎日ぶん殴りたくなるが、それでも付き合っているのは嫌ではないからだと自覚はしている。何となく、憎めない。  「圭介?どうしたの?」  「何が?」  「ニヤニヤしてる。  「ビンタ事件思い出した。」  「もー!!忘れて!!」  二人でケラケラ笑いながら教室に入る。これが、いつもの日常。  だと、思ってた。

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