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第2話
うだる様な暑さの中、レオは俺に課題が分からないと泣きついてきた。それは別に構わない。今は昼休み、時間があった。
***
「で?何が分からないんだ?」
「現文古文。」
変な四字熟語を作らないでほしい。
レオは完全理数系。文章読んでも、知らんし。勝手にしろ。といつも思ってるそう。
俺はどちらかと言うと、文系。数学は好きではあるが、計算が楽で良い。と思っているだけで、物理やら文章題やらでたらさっぱり分からん。将来の事すら今は考えられていない。興味のある事と言えば夜空に浮かぶ星位。
その興味のせいか、天体の部分だけは成績が良い。あとは、ピンポイントな歴史。あぁ、意外と倫理も好きだな。哲学は分からんが、神話とかは読み物として好きなので結構良い点取ってたな。爺さん先生も中々面白かった。
「……いや、普通に文章読めば分かるだろ。」
「溜息混じりに言うのやめて。マジでへこむ。」
そんな事言われても、古文位だろう。覚える事がある教科は。
そのまま口にすると、覚え方を教えて欲しいと言われたのでノートを借り赤丸を付けてやった。
「この辺覚えろ。」
「……うぃっす。」
レ点とかいる?と言いながら唸るレオを放って、俺は読書に勤しむ。近く夏休み前のテストはあるが、今回は興味のある所が殆どなので赤点は無い……はず。
レオは、これでも頭は良いので自分でどうにかするだろう。
ふと、影が降ってきた。見上げるとクラスメイトの男子がいた。
「佐々木、何か一年がお前の事呼んでる。」
佐々木は俺の苗字。教室のドアの方に目をやれば、委員会で一緒の一年の男子がいた。
「誰よ。」
「委員会の一年。」
「なーる。」
「あんがと。」
「いえいえ。」
クラスメイトが元々話していた面子の中に戻り、俺はレオに一言行って席を立った。
「どうした?」
「先輩、急にすいません。何か、放課後委員会あるみたいっす。」
「あ、そう。何でお前が使いっ走りしてんの?」
「委員会の担当教師、俺んとこの担任だからっす。」
あからさまに面倒そうな顔をするので、思わず笑ってしまった。
「む……何で笑うんすか。」
「あの先生、面倒臭がりだったなと思ってな。悪い。」
「良いっすよ。その通りなんで。じゃ、三年とこも行かなきゃ何で。申し訳ないんすけど、伝言ゲームしてくれません?」
「良いぞ。」
ありがとうございます。と頭を下げ、そのまま近くの階段に向かってしまった。ちなみに、こんなでも図書委員だ。楽そうな委員会を選んだが、中々やる事がありしくったと後悔している。
俺はそのまま携帯を取り出し、別クラスの元同じクラスで同じ委員会を選んだ奴に電話しながらレオの元へ戻る。
「あー、今日委員会だって。」
『え、マジで?彼女とデートなんだけど。』
「知るか。一年が伝言ゲーム頼むってよ。」
『うぃー、おっけー。』
「俺は両隣やっとく。」
ここは3組。階段を挟んで2組と4組に伝言するつもりだ。
『って事は、俺は……5組と6組でいっか。』
「そうだな。1組には2組の奴に頼んどく。」
『おっけ、あんがとなー。』
「頼むなー。」
電話を切りつつ、レオに今の話伝わったか顔を見たら俺をじっと見ていたらしい。
「一緒、帰れない?」
「そうなるな。」
「えぇ……待つー。」
たまに思うが、犬かこいつは。俺は好きにしろと言い、早速伝言ゲームに向かった。
***
委員会は夏休みに入った時の話だった。夏休みに本借りる奴いるのか?という考えは、きっとこの場にいる全員が飲み込んだはずだ。
その夏休み中の当番決めで、担当教師がさサクッとくじ引きで決めてしまった。奇数前半か後半か、偶数前半か後半か。前半後半の区別は、ちょうど夏休み真ん中辺りにある登校日。
俺は奇数前半だった。他は知らない女子一人。まぁ、前半だったから良しとしよう。課題でもやれば暇は潰せる。
かなりサクッと決まってしまい、呆気なく委員会は終わった。貰った日程表から自分の担当日を確認して、携帯のスケジュールアプリに落とし込まなきゃなと考えながら図書室を後にした。
ダラダラと生温い空気が入ってくる廊下を歩いて、自分の教室に向かう。なんだかんだ夕方で、差し込む夕日が中々暑い。今日も寝苦しいだろう。そんな事を考えながら教室の前に到着した。
***
レオがいた。
それだけならいつも通りだが、今日はいつもと違った。
夕日の色に染まる教室の中、レオは俺の机の前にいた。細かく言うなら、俺の席の前の席に座っていた。
いつものヘラヘラした顔ではなく、なんだか泣きそうな顔で。でも、微笑んでいて。
そんな複雑な顔で、指先を俺の机に滑らせていた。
あ、こいつ。俺の事好きなのか。
何故かは我ながら分からないが、確信した。それと、嫌悪感もなかった。
ただ、バクバクと自分の心臓の音がやけに煩く感じて思わず自分の胸元を握りしめた。
俺はその光景をただ見ていた。
レオは、俺の机にキスをした。
そっと、触れるだけの。
それから、窓に顔を向けて俺の机に頬を寄せた。そこまで見て、俺はやっと教室に入った。
ドアを開ける音を聞いて、レオはガバッと顔を上げた。
その顔は、泣いていた。
俺は衝動的に、レオの頭を抱き込んでいた。
「っーー。」
「何で、泣くんだ。」
「ぁ……えっ、あ……わかん、ない……。」
「俺なんかを好きになってどうすんだよ。」
「気付いたら、好き、だった……。」
「そうか……。」
「気持ち悪く、ない?」
「まぁ、こうしてやる位には気持ち悪くないな。」
愛とか恋とか、理屈じゃないのは分かってる。小説だって、神話だって。最初は顔だし、少し優しくされたからって結婚したりする。
「きっと、そういうのは理屈じゃない……。」
「……ん……ありがと……。」
でも、俺は……
「これが、精一杯だ……。」
レオの頭を抱き込むだけで、精一杯だった。
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