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第15話 「う!鰻っ!」
「う!鰻っ!」
「嫌い?」
「い、いえ大丈夫です!大好きです!」
「なら問題ないな」
大好きというか、こんな上品な場所で国産の鰻を食べたことないからハッキリ言って好きか嫌いかも分からない。
いつしか食べたスーパーのお弁当にちょっぴりのっていたのを食べたくらいだ。
本物の国産鰻の蒲焼き鰻重を食べられる日が来るなんて!
「お、美味ひい~~~!」
「……ふ……大げさだなぁ」
「大げさじゃないです。超美味しい~!スミマセンご馳走になっちゃって。もうバイト代から差し引いて下さい」
「……」
「鰻って本当に美味しいんですね!身はふわって感じでタレもとっても美味しい!」
「そんなに喜んで貰えるならいつでも食べさせてあげるよ。鰻は栄養あるから桜にはもってこいだし」
「いやいや!いつでもなんて贅沢なんで年に一度とかそれくらいかなぁ」
「……」
「あ、ごめんなさい調子に乗りました!数年に一度あるかないかに……」
「……するわけないでしょ。そういうこと言うなら毎日食べさせるよ」
「えええ!!?」
「ったく。まぁいいから食べなさい」
「はーい」
京さんに促され目の前の鰻を美味しくいただいた。
京さんも品良く同じ物を食べているけど、僕何かと違ってとても上品に食べている。
当然も当然なんだけど、こんな出来る人と自分が一緒にいるなんて……ましてや一緒に住んでいるなんて未だに信じられない。
夢でも見てるのかもしれないって思う。
だって僕にはこれと言った特技も長けた能力がある訳でもないし。
それにハッキリ言って自分の血にそれほどまでの価値があるなんて実感ないから。
「京さ……京」
「……」
「あの……」
「ふぅ……もう呼び捨てではなく、京さんでいいよ。呼ばれる度に訂正されるのも嫌だし」
「ごめんなさい」
「で、なんだい」
「……僕の血ってそんなに美味しいの?」
「美味しいよ」
「まだ一度しか飲んだことないのに?」
「うん」
「そう……じゃぁまた飲んでもらわないと」
「…………うん?」
「だってこんなに色々してもらってるのに僕はまだ京さんに一度しか血をあげてないだろ?全然釣り合ってないよ!だから早く僕の血をもっと沢山飲んでもらいたいっ!」
「……」
「お願いします!」
「はぁ~~~~~~~だ か ら 今栄養補給してるんだろ。今血を飲んだりしたらお前死ぬぞ」
「え」
「貧血で二週間前に倒れてコンビニのおにぎりばかり食べてる奴から血を抜いたらどうなるか考えてみろ。どうせ血を吸うならそれなりの質とそれなりの量が欲しい。今飲んだら加減できなくてうっかり殺してしまうかもしれない」
「……あ、そ、そぉですね。ちゃんと食べないと血も増えないですもんね。……そっか……だから京さん美味しいご飯食べさせてくれるんだ。納得!」
「……」
「僕頑張って栄養とりますね!料理もちょっと頑張ってみます!京さんにも食べさせてあげられるように」
その時の京さんは目をパチパチさせて戸惑っているように見えた。
迷惑かもしれないけど、こんな美味しい鰻を食べさせてくれて高価な服や靴を買ってくれてるのに僕は何もお返しが出来ない。
血をあげることしか出来ないんだ。
後は掃除とか洗濯とか料理とか家のことをしよう。
そう鰻を食べながら心に誓った。
しかしやる気とは裏腹に現実は残酷なもので……
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