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第38話 きっかけは

**京** きっかけは突然だった。 仕事帰りの車内から見える駅前の光景の中に、良く知った顔の人物がいてふと目を止めた。桜だった。 女の子と話をしているのか楽しそうに笑ってる。その子と桜との距離が近いな……桜の腕に何気無く触れている。そういうところに自然と目がいってしまった。 恐らく相手の子は付き合っていた彼女か……あか抜けた感じの可愛らしい子だ。 調査によれば既に関係は終わっている筈。 後部座席の肘掛けに肘をつきながら指先で自身の唇をなぞった。 桜の学業や交遊関係は桜の自由にさせている。 そこまで縛ると良好な関係を築くのに逆効果になりそうだからだ。 俺から逃げなければいい……桜は素直にそれに従っているし、問題を起こすような友人もいないようだったからあえて関与していなかった。 なのに俺は今しがたの光景に少なからずイラついている。 馴れ馴れしい女だと思ったし、桜もそうだと思った。 お前は俺のモノなんだから他人と親しく話をしてはいけない……桜のことは当然気に入っている。 生き血は申し分ないくらい格別だし聞き分けもよい。自己評価の低さ、貧乏性はなかなか抜けないがとても素直で指摘されたことは改善しようと努力するところも魅力的だ。 それに……口からの吸血は良かった。適量を摂取できるのは勿論だけど桜の口内……舌や唾液までも甘く、それを味わっている時の桜は頬を赤らめ羞恥が伺えて色っぽい。 あんな艶のある表情ができるのか……そう思ったらまた見たくなるし、自分以外の奴には見せなくないと独占的な考えも生まれた。 そして……もっとその先の行為をしたらどうなるか……そう思ったらこの先の二人の関係をもっと深いところまで構築していくことが必要だ。 ……うーん。これは一体どういう感情か……桜を俺自身どう思っているのか冷静に判断しなくてはならない。 美味しい餌としてが一番有力だが、お気に入りの家政夫としてとか……友人……は絶対ないし、恋人……いやペットか? それと同時に桜が俺のことをどう思っているか。それは桜の行動を見れば直ぐ分かるのだけど、馬鹿な桜が自覚しているわけがなかった。 まぁ突然拉致したわりには嫌われてはいない……という程度のことくらいだけど。

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