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SideA カイト

 ベルトで両手をヘッドボードにくくりつけられた。バックルが引きしぼられるのを待ちかねて、腰高にスタンバる。  ジェルを塗りこめてあっても、ペニスがこじ入ってきて粘膜がその量感になじむまでの数十秒間は、異物感との闘いだ。  下手っぴいな男に限って、どうして先っぽが挿入(はい)りきるか挿入らないかのうちからガンガン突いてくるんだろう。統計的にそうで、今しも腰を使いはじめた男は〝テクニックのなさを派手なピストン運動でごまかす〟という部類の典型だ。 「焦らないで……ゆっくりイジメて、ね?」  ほぉらね。やみくもに腰を動かすものだから、勢いあまってペニスが抜けてしまった。シラけるわ、肩の腱がねじれるわ、これじゃあギャグだったら。  ため息がこぼれ、それでもボランティア精神を発揮してもういちど合体しやすいように尻を突き出してあげると、 「淫乱め。そんなにハメてほしいのか」  ペニスと一緒に、むっちりした中指が襞をかき分けにかかる。  科白じたいがベタなうえに棒読みもいいところで、噴き出しそうになった。  前戯は省略、という自己チューぶりは大歓迎だけれど、AVで得た知識は絶対に正しいと信じ込んでいるクチなのは、いかにも的すぎて新鮮味に欠ける。  次は、おおかた「ガン掘りしてやるぞ、うれしいか」あたりの科白が飛び出すんだろうな、と予想してみたら。 「奥までぶち込んでやる、ケツを上げな」  陳腐な点が、かえってツボにはまった。礼儀上、枕に顔を埋めて笑いを嚙み殺す。  にしても、かび臭い布団だな。ベッドそのものも、いいかげんガタがきている。推定百キロ超の男が突き上げてくるたびに、スプリングがへたっちゃわないかなと、ひやひやする。  ラブホ代は男持ちだから贅沢は言えないけれど。  もっと締めろ、とか。いったん休憩だフェラしろ、とか。やたらと注文が多い男はきっと安月給でこき使われていて、憂さ晴らしに俺さまなキャラになりきって威張り散らすんだろうな。  そういえばキャッチャーな自己PR文でも、自分は拘束プレイを愛するドSだとうそぶいていたっけ(実際には亀甲縛りさえできない、ぶきっちょでベルトで代用したくせに)。

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