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第2話

 男が、おれの前髪を鷲摑みにすると、手綱をさばくノリで後ろにひっぱった。  バックで攻め込んでくると腹がつかえるくらいのデブで毛深くて一生、モテ期なんかきっこない男とのセックスは、五段階評価でいえば一だ。  モリこと杜野尚文(もりのなおふみ)が、結合部分に冷徹な眼差しを向けてくる。  出会い系サイトのヘビーユーザーたる木崎海斗(きざきかいと)の生態が興味深い、といいたげに。  イチゴをかたどったソファに腰かけて、紫煙をくゆらしながら。  今年の春先に鼻骨を折られた影響で微妙にゆがんだ鼻梁をこすりながら。  照明の悪戯で、いわゆる塩系の端整な顔は、哲学者のような雰囲気を漂わせる。    モリは大学の同級生で、なおかつ恋人だ。おれは大げさに腰をくねらせる。感じっぱなし、という表情(かお)をこしらえて涎なんかも垂らしてみる。  モリが〝寝取られ〟の奥義を究められるように協力する。  ぱんぱん、と肉と肉がぶつかる音が単調に響く。リネン類はパステルカラーで、壁紙は童話の一場面風で、ベッドはハート型というぐあいに、あざといほどファンシーな空間に。  早く夏がこないかな。深みをえぐられながら、ぼんやりと思う。今年の梅雨は前線が関東上空に停滞しがちで、今日もしとしとと降りつづいているんだ。  雨は嫌いだ。モリと並んで歩いていても、傘の直径の分だけふたりの間に距離ができて、それが淋しいから……。  男が、ひと声吼えて果てた。贅肉の塊が背中に覆いかぶさってきた拍子に膝がくだけた。  重い、ローラーにかけられたように躰がぺっちゃんこになるかも。にもまして汗みどろの肌がにちゃついて、吐きそ。肉布団の下から這い出すべく、じたばたしはじめたら。  モリが、おもむろに腰を上げた。つかつかとベッドに歩み寄ってくると、ぶよぶよした躰にワークブーツの底を押し当てるなり、丸太を転がす要領で男を蹴り落とした。  地響きがした。  尻餅をついて目をぱちくりさせる男は、冬眠中に掘り出されたヒキガエルみたいだ。縮こまって皮をかぶったペニスは、しなびたツクシンボにそっくりだ。  ずるりとコンドームが抜け落ちて、精液がこぼれる。掃除係の人も気の毒に。あれのシミは落ちにくいんだよね。

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