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第12話

 ヤツに監禁されて半年が過ぎた。ヤツに言わせれば『保護している』ということになるらしいが、ヤツの悪趣味は日を追うごとにエスカレートしてきた。  単に俺を犯るだけではなく、卑猥な言葉で俺を揶揄し、淫らな言葉や仕草でヤツを強請らせる。ヤツのモノを毎日のように咥えこまされて啼かされるのは屈辱以外の何物でも無いのに、ヤツが来ない日は妙に静か過ぎて、心もとない気分にかられる。  部屋に置かれた大きな姿見を見る度に、俺は俺が誰なのか分からなくなる。筋トレのおかげで、少しも筋肉がつき、腕も脚も以前ほど頼りない様では無くなってきて、腹もほんの少しだが割れてきた。が、以前の俺の身体とはほど遠い。細面の顔、黒目がちの切れ長の眼、通った鼻筋に小振りな紅い唇、細く長い首。食事の量が決められているし、間食すらお上品な小さなケーキくらいで、薄い肩も胸もそう変わらない。  変わったのは、ヤツに弄ばれ続けて紅く色づいてふっくらと膨らんできた胸の突起と独り寝の夜にきゅんと疼いて欠落感を訴える後孔だけだ。困ったことに、この身体は半年間閉じ込められ、ヤツに咥え込まされ続けて、すっかりと後ろでの快楽の味を覚えてしまったらしい。  忌々しいことに、自慰の時ですらヤツの胸板の分厚さや熱を思い出し、その雄の匂いが頭をかすめ、指が後ろをまさぐってしまう。ヤツの硬いデカイものに貫かれ、抉られる感触を求めて尻が揺れてしまう。 ーチクショウ... ! ー    俺は鏡に向かって毒づくが、そこにあるのは、見慣れぬ若造の顔だ。女とも男ともつかぬ不思議な色香をまとった瞳が俺をじっと見ている。そいつは、ミハイルの姿を見留めると身体の芯を疼かせて、大きな掌の熱に簡単に蕩けてしまう。 ー俺は.....俺はそんなヘタレじゃねぇ!ー 「どうした?自分の顔に見惚れているのか?」  鏡越しにヤツがニヤニヤ笑いながら近寄ってくるのが見える。 「俺には、そんな趣味はない」  身を翻して避けようとする俺の肩をヤツの両手が、ガッシリと掴み、鏡に向き直らせる。なんでコイツはこんなに馬鹿力なんだ。いや、俺がひ弱なだけか?! 「良く見ろ、パピィ」  ヤツが耳許で囁く。低く艶のある声が鼓膜を震わせる。 「来た時より、だいぶいい顔になってきた」 「いい顔?」 「そうだ。.....色気も出てきたが、締まった顔つきになってきたじゃないか。眼がな、鋭くなってきた」  馬鹿にするな。俺は『九龍の鷲』と言われた男だ。一睨みすれば、チンピラなんぞ途端に尻尾を巻いて逃げた。そこまでの迫力が出ないのは、残念ながらこいつの目尻がちょっとばかり垂れてるせいだ。  ヤツの手が俺の脇腹を撫で上げる。 「身体も適度に肉がついて締まってきて、前より抱き心地が良くなった」 「柔らかいのが好きなんじゃないのか?」 「柔らかけりゃいいなら、女を抱いてる」  ヤツが俺の身体を抱き上げ、ぽふん、とベッドの上に投げ落とす。 「あんたが、そういう趣味とは知らなかった」  毒づく俺の顎を掬い上げて、ヤツがニヤリと笑った。 「女は厄介だからな。抱かない訳じゃないが面白くはない」  俺の唇に軽く口づけてヤツは、じっと俺を見据えた。 .「私は強い者が好きなんだ。強い者が私の掌の中でどうしようもなく蕩けて乱れるさまが堪らない」  ヤツの手が、俺のシャツの中に潜り込む。下着もスラックスも室内では着けることの許されていない俺はやたら裾の長い前開きのシャツ一枚。と言うより、ヤツの体型のシャツのやや裾の長いものを宛がわれているだけだ。 ーまともな服は無いのかー と訊けば、 ー外に出る時には着せてやるー ときた。おかげで俺は四六時中、ヤツの匂いにくるまって過ごさなきゃならない。 「だったら、あんたの部下に相手をしてもらえよ」  レヴァント-ファミリーの実働部隊は名うての猛者の集まりだ。俺達がどれだけ叩き伏せられてきたか、俺が一番良く知ってる。 「強いというのは、ここのことだ。別に厳ついのが好きな訳じゃない」  ヤツの指が、とんとん.....と俺の胸を叩く。 「我が儘だな」 「そうだな。それに....」  ヤツの手がもぞもぞと俺の後ろに回り込む。俺はヤツの指が潜り込む感触に身を捩る。 「お前のここは最高だ。ねっとりと絡みついてきて、よく閉まる」 「最低だな、あんた.....」  いや最低なのは俺だ。俺の入っているこの身体だ。ヤツの指を美味そうに食い締めて、ひくひくと蠢いて、強請っている。  ヤツが欲しい、と。ヤツの逸物で思い切り突かれて抉られたい。ヤツの熱いアレをぶち撒けられたいと、腰がくねり、尻が揺れる。 ー俺は最低の淫婦(夫)だ....ー 「待ちきれないのか、いやらしいメス犬だな」  ヤツに耳朶を噛まれ謗られて、顔も身体もかあっ.....と熱くなる。 「存分に愉しませてやろう。.....淫らなメス犬はしっかり躾てやらないとな」  俺の身体はヤツの首に腕を回し、どっしりとした腰に脚を絡ませる。深みを突かれ、擦られて歓喜に咽び啜り泣きながら、遠くにヤツが嘯く声を聞く。   『堕ちていくのは、快感だろう......お前はもぅ戻れはしない.......可愛い哀れな俺の牝犬.....俺のラウル.....』  薄れていく意識の中で、ヤツが俺の名を呼んだような気がした。が、それも深い愉悦の底に引き摺り込む快感の波に呑まれて消えた。

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