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第13話

「今日は散歩にでも行くか」    ヤツがそう言い出したのは、若葉の色も深くなってきた初夏の終わりだった。ここに閉じ込められてから、日々を数えることの虚しさに飽きて、ただ窓から見える景色に季節の移ろいを知るばかりだった。  ヤツに渡されたスマホは当然、インターネットに接続されてなどおらず、ヤツからのメールと通話だけの道具に過ぎなかった。  あまりの退屈さにー何とかしてくれ ! ーと訴える俺に与えられたのは、ロシア語の読み物と日本語との対訳の辞書だった。  まぁヤツは俺は日本人のガキだと思い込んでいるはずだから、広東語の小説なんぞ期待できる訳もないし、ヤツとの会話は時おり英語も混じるが何故か日本語だった。 『あんた、日本に住んでいたことがあるのか?』 と訊くと、 『少しな.....』 と答えた。  執事の話によれば、ペレストロイカに乗っかって市場を拡げるためにヤツの父親が日本に留学させたんだという。 ートーキョー-ダイガクに通われてましたー  エリート-ヤクザって奴か、なおさら始末が悪い。    ともかくも、随分と久しぶりに外の空気が吸える。俺は執事の用意した服に袖を通した。ジャストサイズのぴったりしたシルクのシャツにやはりジャストサイズの細身の黒のスラックス.....はいい。 「下着は?」  さすがに下着無しでスラックスを履くのは収まりが悪い。 「そこにある」 とヤツが指差した小さな布きれを見て、俺は絶句した。いわゆるビキニというかブーメランパンツというのか、とにかく布地の面積が小さい。絶対、はみ出る。 「もう少しまともなものにしてくれ。ボクサーパンツとか普通のブリーフとか...」  トランクス派だった俺にはそれだって妥協点だ。だが、ヤツはすげなく言った。 「ダメだ。嫌なら履かずに行け」  ぐぅの音も出なかった。ヤツはしぶしぶと小さすぎる下着に足を通す俺を眺め、辛うじて収まった股間のモノを撫で上げた。 「可愛らしい代物だな。淡いピンクが透けて実にいやらしい」 「やめろよ.....!」  もともとの俺のモノはもっとデカイし、使い込んでる.....と言いたかったが諦めた。どのみち、ヤツのモノには及ばない。悔しいがそれだけは認めざるを得ない。ヤツのは規格外だ、仕方ない.....と胸の中で呟きながら、ヤツの手を振りほどいてスラックスに足を通した。  と、ヤツの手が、するりと俺の首に回された。カチリ....と金属の嵌まる小さな音がした。  鏡を見ると、小指の先程の幅の黒い革製のチョーカーが首に巻きついていた。 「何だよ、これは!」  と俺が憤慨すると、ヤツはしれっと言った。 「飼い犬に首輪を着けるのは常識だろう、パピィ。はしゃぎすぎて迷子になっては困るからな」  俺は悔しさに唇を噛み締めた。 「言っておくが、自分で外そうとしても無駄だ。留め金は指紋認証になってるからな」 「無駄に最先端技術を使うな...!」  俺は無性に腹がたった。おそらくは留め金のどこかにGPS も仕込んであるんだろう。  その日初めて見た庭園の景色は見事だったし、その後にちょっとだけ連れていかれたカフェのラテも美味かった。ヤツに街中や車の中で弄ばれたりしなかったら、もっと感動できただろう。 「楽しかったか?.....また連れていってやろう」  ヤツは、汚れた下着を脱ぎ捨てる俺をせせら笑いながら、頬に唇を押し当てた。  俺はいつものシャツに着替え....だがチョーカーは外されないままだった。 「これ、外せよ!」 とがなる俺にヤツはニヤリと笑って言った。 「なぜ?良く似合ってるぞ。.....本当に可愛い牝犬だよ、お前は」  俺は勝ち誇ったヤツの顔をぶん殴ってやりたかった。が、俺の抗議も虚しくGPS 付きのチョーカーはそれからずっと外されないままだった。  

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