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第14話
そいつを見掛けたのは、何度目かの散歩の時だった。広い庭園の片隅の東屋で散々ヤツに弄ばれた後、ヤツの行きつけのカフェでぐったりと外を眺めていた時だった。
ぼんやりとした視界に向こうから何やら話ながら近づいてくる二、三人連れの男がカフェの入口に差し掛かった時、俺は思わず眼を見開いた。
ー俺だ... ! ー
ほんの一瞬だったが、見間違いようがなかった。自分の顔を、自分の姿形を見誤るはずなどない。後ろ髪のはねた癖の強い黒髪、太いしっかりした首に張った肩、捲り上げた袖の間から斜めに走る古傷を見た時、俺は心臓が飛び出しそうなほど驚いた。
「どうかしたのか?」
思わず椅子から乗りだしそうになって、ミハイルの冷ややかな声に我れに帰った。
「なんでもない.....」
ーコイツに知られてはいけないー
俺は咄嗟にミハイルの視線を店内に戻そうと頭を巡らせた。
「あのパフェ、食べたいんだけど.....」
思いついて指差した先では、やや体格のいい金髪美人がクリームのたっぷり乗ったパフェを美味そうにパクついていた。
「太るぞ」
そう言って苦笑いしながら、ミハイルはそのパフェをウェイターにオーダーした。その間に例の男の姿は無事に通り過ぎて見えなくなった。
俺は胸を撫で下ろして、運ばれてきたパフェにスプーンを突き刺した。確かにそれは不味くはなかったが、甘過ぎて胸焼けがした。けれど、俺の胸はそれ以上に高ぶっていた。
あの腕の傷......あれは間違いなく、俺がガキの頃に近所のチームの奴とやり合った時についた傷だ。かなり深くナイフが刺さって.;...だが俺は負けなかった。ナイフが刺さったまま家に帰って.....親父は目を剥いたが、そのまま急いで医者に連れていってくれて...腱も筋も損傷してなかった事にホッとした。そして親父は、勝ったことも誉めてくれたが、むやみにナイフを自分で抜かなかったことに感心していた。ー正しい判断だーと。咄嗟の時に冷静な判断ができるか...が生死を分ける。俺はいつもそう教わってきた。
ーだが、何故、『俺』がここにいるんだ?ー
あの男が『俺』だったとしたら、何故生きているんだ?何故、こいつに撃たれて死んだはずの俺が、普通に歩っているんだ?しかも敵であるこいつの仕切るこの街を、俺が囚われているこの街を、俺ではない『俺』が平然と歩いているんだ?.......正直、俺は混乱していた。
「何を考えている...」
帰りの車の中で、ぼうっと『あの男』の事を思い巡らせていた俺にミハイルが怪訝そうに眉をひそめた。
「なんでもない。あのパフェが甘過ぎて気持ち悪いだけだ.....」
言って俺は窓のほうに顔を向けた。ガラス越しのヤツの顔がほんの少し口の端を上げて笑っていたが、その意味に全く気づくはずもなかった。ヤツの家...邸宅というほうが似合いの屋敷に戻ってからも、しばらくは『あの男』の姿が頭から消えなかった。
「カロリーの採り過ぎだな」
夜が更けて、ヤツにいつものように、いや、いつも以上にしつこく責め苛まれながら、俺は浮かんできた謎とささやかな希望を抱きしめていた。
ー『俺』は生きている。だが、いったい奴は何者なんだ....? ー
二度目に意識を手放し、ヤツの胸ぐらに頭を抱えられて眠りにつくまで、ヤツはしつこく俺を犯し続けた。
『お前は俺のものだ。俺から逃げることはできない.....』
俺を犬のように這わせ、尻を高く抱え上げて、幾度も深く穿ちながら、ヤツは脅すように言い聞かせるように囁き続けた。
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