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逢瀬 ④★

 浴室で井上を抱きながら先ほどのまるで恋人同士のような会話を思い出す。  2人の関係は正直なところとても曖昧だった。  最初は確かに体だけの関係だったような気がした。定期的に会って抱き合う以外に恋人同士らしいことは何もしていないし、2人の関係についてはっきりさせようとする必要性も感じなかったため、そんな会話すらしたことがなかった。  それに、当初からお互い相手がいたことも2人の関係が体だけだと結論づける大きな要因となっていた。  桜井は井上以外の男とは関係を持ちたいとは思わなかったため、相手は必ず女だったが、井上は逆に男だけだった。お互い相手の存在に気づいても何も言わなかったし、何も聞かなかった。  まるで、自分たちの世界だけ独立しているかのような感覚。この世界以外で起こったことは関係ないし、この世界に影響も与えない。そんな風に思わせるような、ある意味この関係がとても『特別』な感じがしたのだ。  そうして関係を持ち続ける内に、時々ふと恋人同士のような甘い時間が流れるようになった。桜井はその自覚はあるが、井上がそれを同じように感じているかは分からない。ただ、それでも別にいいか、と思った。その時間は誰にも邪魔されるわけでもないし、それによって『他の世界』が変わるわけでもない。たとえそれが『錯覚』や『偽り』の甘い時間であっても。  いつの間にかそれが当たり前となって。もう、この関係について深く考えることも、それを変えようとすることも放棄していた。 「あっ、あっ、んっ……」  浴槽の壁に両手を突いて尻を突き出す井上の背中を見つめる。自分が動く度に井上の体も合わせて揺れる。  他では得られない例えようもない快感がじわじわと広がっていく。井上の腰を支える両手に力を入れた。  井上がこちらに顔を向けた。 「桜井……」 「…………」  その切なそうに訴える色気を含んだ表情に、桜井の何かが刺激される。  桜井はそれに応えるかのように井上の尻をぐっとわしづかみして更に奥へと腰を突き立てた。  この関係に何か答えを出すことなど必要ない。自分の気持ちをはっきりさせることも必要ない。そう。このまま、時間に身を任せて、時に『恋人』のようにいつまでも井上と交わっていられればそれでいい。  そう思っていたのに。  影響など受けることもないと思っていた2人の世界は、ある日突然、あっさりと終わりの宣告を突きつけられた。

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