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やんごとなき探偵 1
春井壮吾は、腐れ縁の友人、久須美刻 の一挙一動を、瞬きも惜しい心持で、じっと見守っていた。
二十畳ほどの室内には、警察関係者数人と、刻の指示で集められた被疑者候補の四人が、固唾 を呑み刻 を見つめている。
いや、中には恨みのこもった刺すような視線を向けている者もいた。
人間の体から発せられる体温と威圧感で、室内は目に見えない異様な空気で息苦しい。何度も立ち会っているが、壮吾は、この空気に慣れる日は来ないだろうと思う。
毎回、緊張感からの手汗が凄いのだ。
「俺たちの中に犯人がいるっていうのかよ、あんたのような妙な格好の若造の推理なんかあてになるものか! ホームズでも気取っているのかね」
被疑者候補の五十代と思しき男性が、刻 を指さし声を張り上げる。言われた本人は端整な顔に余裕の笑みを浮かべた。
「ええ、あなたの仰るとおりです。僕のような若輩者に推理などできません。ただ、天に煌めく星々が、僕に答えを告げ、解決へと導くのです」
……でた。刻の決め台詞だ。
こればかりは一向に慣れないし尻がむず痒くなるのだが、謎が解けたことを示している。
刻は、力仕事などしたこともないような長く綺麗な指をすっと伸ばし、ある人物に真っ直ぐ向けた。
刻の顔から笑みが消え、人形のように整った顔は冷酷なほどに美しい。
無言の圧力に気おされ、激高した男性は声を詰まらせる。
「彼を殺害した犯人は、あなたです」
♢
天井の高い室内は、二人分の荒い呼吸音に満ちていた。
高級で頑丈なベッドは、大人の男二人が乗って激しく動いても、軋む音は聞こえない。壮吾は口から洩れる嬌声の合間に、自分を穿つ男に言った。
「はっ犯人は……、おまえに、文句垂れてた、おっさんだと思ったのにっ……アッ……」
「君のっ、予想が、当たったことなどっ、過去に一度だって、あったかいっ」
刻 は壮吾の両足を高く抱え直し、さらに深く突いてくる。
壮吾の口から、いっそう高くなった喘ぎ声が漏れる。
「あっ、やっ、アッ、あぁ、あっ」
壮吾は既に一度達しているが、二度目の波が近づいていた。しかし、刻はまだ一度も達していない。
刻の腰の動きは荒いが、一方で口元に余裕の笑みを湛えている。ヘーゼルの薄い瞳の中に僅かな欲が垣間見えるだけ。
壮吾だけが乱れ、官能に追い込まれる。けれど自分ではどうしようもない。
「あ……くる、また、はっ、あっ、あぁ……」
刻は激しく腰を打ち付け、確実に壮吾の弱い場所を容赦なく攻め立てる。
壮吾は、甘ったるい声で刻の名前を呼んでしまいそうになるのを堪え、両瞼にギュッと力を込める。
自分たちは恋人同士じゃない、勘違いするな、と。
穿たれている場所と同じように、深い口付けも欲しくて、刻の彫刻のように美しいラインの頬に手を伸ばしてしまいそうになる。
――身体だけ……この熱だけでいいんだ……心はなくてもいい……
壮吾は刻に抱かれるたび、毎回自分に言い聞かせるのに必死だった。
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