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やんごとなき探偵 2

 額から汗が吹き出し、ベッドの上でも着用を義務づけられている眼鏡がずれる。  限界が近づき、壮吾は深い官能から逃れようと首を振った。その拍子に黒縁の眼鏡がフローリングの床へ落下する。 「うあっ、アッ、あ――――」  生理的反射で溢れる涙を目に浮かべ、自分を犯す男を見上げた。  胸の内も身体中のどこもかしこも、秘めた恋情に震える。 「くっ……」と低く呻く声を密かに耳が捉えた次の瞬間、壮吾の奥深い部分で、薄いゴム越しに灼熱の液体が爆ぜた。          壮吾を組み敷いていた身体が、どさりと覆いかぶさる。  耳元にかかる息は荒い。この重みは好きだといつも思う。  自分も呼吸を整えながら、壮吾は男の滑らかな背中にそっと手を回した。しかしその身体は壮吾の手をすり抜け、まだ熱さを残したまま真横へ仰向けに転がる。    事後の気怠さと淋しさを感じながら、男の横顔を見つめた。  深く息を吐き気持ちを落ち着けた後、壮吾は口を開く。 「……ま、確かに、俺の予想は見事に外れるのが相場だもんなあ」 「君は、無能なワトソンでいいんだよ」  先ほどの情熱的な様子とは打って変わり、刻は穏やかな笑みを口元に浮かべる。  つい、その表情に見とれてしまい、壮吾はひっそり自分を叱咤した。 刻には妙な癖がある。  やんごとなき身分を利用し趣味で探偵をやっている彼は、事件を解決した後は必ず興奮状態になるらしい。  要するに、無性にセックスがしたくなるのだ。  特定の恋人は作らない主義で、見た目通り女に不自由しないから相手には困らないようだが、この数か月は、事件後に壮吾をベッドへ引っ張り込むようになっていた。  完全なセックスフレンド状態だが、壮吾は好きな相手に抱いてもらえるのが嬉しくて、ずるずるとこんな不毛な関係を続けている。  根っからのフェミニストで男嫌いの刻が、性欲を我慢できずに男を抱くなんてよほどのこと。……なんだろうとは思う。  けれどそのことについて、壮吾から問いかけたことはない。  追及すれば、この不毛な関係はおろか、十年に及ぶ友人関係も破綻してしまいそうで怖い。(身分が違いすぎてこれが普通の友人関係なのか不明だし疑問だが)それだけ、この久須美刻という男は謎のベールに包まれているということだ。  だから、せめて友人としての縁を切らないためにも、壮吾は余計な詮索はせず秘めた想いも隠し続けている。  ――普通は友達と肉体関係なんか結ばないだろうけどな…… 「そもそも今回の事件が、春井くんの猿並で貧相な脳みそに解ける程度の謎なら、初めから僕の出番はないよ」 「だよなー、俺の脳みそは猿レベルだしなー…………って、おまえな!」    アップに充分耐えうる秀麗な顔に優雅な微笑みを浮かべ、刻は起き上がる。  本当にこの男は……。一見、虫一匹殺せないような風貌のくせに、女や子供、おそらくは全年齢の女性をコロリと騙せる笑顔を作るくせに。    その形の良い上品な口元から吐かれる言葉は、七割……いや、九割方辛辣なものだ。おまけに命令口調。特に壮吾に対しては。    言われるのがわかっていて話を振った自分も悪いのだが、壮吾は出かかっていた言葉を飲み込む。二人きりの時くらい、なるべく穏やかに会話したい。 「眼鏡、外れてしまったね」    刻の視線の先、ベッド脇に黒縁の伊達眼鏡が転がっていた。 「ああ。汗で滑っちまって……」  壮吾はそれを拾い上げた。念のため壊れていないか点検する

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