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やんごとなき探偵 3

 ある程度の衝撃を受けてもOKな素材のため、不備はなさそうだ。ほっとして装着すると、刻が軽いため息を漏らす。 「外れないように工夫してくれないと困るよ。いいかい、君の平凡な一重瞼の目はメデューサに匹敵するほどの危険な凶器なんだ。それを持っていることを忘れるな。僕は石になるのはごめんだよ」  胸がズキリと痛むが、無視を決め込む。 「はいはい……わかってるよ。――そうだな。じゃあ、紐かゴムでも通すか」  壮吾が提案すると、刻は思案の表情の後、名案が浮かんだ、とでもいうように、左手の手の平に右手の拳をポンと当てる。一転、目が楽しそうだ。 「水泳用のゴーグルはどうだろう。それなら外れないし。あ、スキー用のゴーグルでもいいかな」 「はあ? なんだそれ、マニアックなプレイかよ」 「ついでに水着着用っていうのも一興だね。ブーメラン型はどうだい? 意外に似合うかもしれないよ、春井くん」 「冗談だろ」  雑な言葉をポンポン投げられても、この態度は自分に対してだけなのだと思うと、悪い気はしない。    必要以上ににやけそうになる顔をなんとか保ち、壮吾は床に落ちた下着や衣服を拾い上げる。  ベッドサイドの時計は午後十時を指していた。 「そろそろ帰るよ」    刻の視線を背中に感じながら、シャツのボタンをはめていく。 「しばらく仕事は在宅だと言ったね。君のために島ノ江が客室を整えているから泊まっていけばいいだろう。……たまには応えてやってくれ」  刻にしては珍しく、懇願するような口ぶりに気持ちが揺れる。だが壮吾は泊まるつもりはなかった。 「ありがたいけど、自宅で寝起きしないと生活リズムが崩れるんだよ。おまえが考えるより、在宅勤務っつーのは自分に気を遣うもんなの。それに……」  着衣を整え、壮吾は振り向いた。 「実は、塾の方がだめになったから、もう一つ仕事探さないとヤバくてさ」  刻はしどけなく裸体を横たえ、じっと壮吾を見ていたが、色素の薄い瞳が鋭く光った。 「ダメになった?」  普段は衣服の下に隠れているが、上半身は、彫刻のように均整の取れた美しい筋肉に覆われている。  それに目を奪われそうになりながら、壮吾はずれてもいない眼鏡をくいと指で上げた。 「どういうことかわかるように説明しまたえ。生徒と何かあったのか? それとも同僚か」  すぐに答えられなくて、壮吾は黙り込む。まさか両方だなんて言えない。 「えっと、その……。いやあ、どうも俺の周りには思い込みの激しい人物が集まりやすいみたいでさ」

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