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刻の意外な一面 11
「ああ、大勢だと賑やかでいいね」
刻の肉親に会えるのはもちろん楽しみだ。しかし、壮吾にとって現時点では島ノ江や若梅の方が身近な存在に感じている。刻の祖母や母親とも、いずれは親交を深められるだろうか。
――おばあさんやお母さんの話をするときの久須美って、すごく穏やかな顔つきになるもんな
刻の大切な家族を、自分も大切に感じたい、同じくらい想いたい。
「どうしたんだい、ニヤニヤして」
「そこはニコニコって言えよ」
「では言い直そう。――どうかしたのかい、可愛い顔をニコニコさせて」
「かっ……」
「春井くん?」
「あ、いや……。俺いつのまにか、おまえや島ノ江さん達を、無意識に家族のように感じてたなって」
そうだ。だからこそ、刻の母や祖母との対面時には、彼らにもその場にいてほしいと思ったのだ。
刻の指先が、話の先を促すように壮吾の髪を優しく撫でる。慈しむような手つきに、穏やかな睡魔が襲ってくる。
「もちろん、里親の両親への気持ちは変わらないけどさ、近くにいる分島ノ江さん達を身近に感じてるのかもな」
「彼らが聞いたら、とても喜ぶよ」
「そうかな」
「もちろん」
刻の曽祖父、刀禰との対面が叶った、大きな山を越えた今は、刻の両親や祖父母と会うのが単純に楽しみだった。
――久須美の家族と親交を深めることができたら、本当の家族のようになれるかな……
刻さえそばにいてくれたら、それも叶うような気がする。
「あのさ、久須美。思ってることは何でも俺に言えよ。ほんの些細なことでも何でもいいから」
「春井くん……」
「さっきみたいに、おまえが妙な態度になったら、俺が心配になっちまうだろ。照れてるとか、いたたまれないとか、とにかくなんでもいいから言葉にしてくれ」
壮吾は睡魔に耐えながら思いを伝えた。刻のヘーゼルの瞳が見開かれる。
「できれば、――君には格好悪い僕を見せたくないんだけどね」
「たとえかっこ悪くても、おまえは充分かっこいいから大丈夫だ」
「本当かい」
「おまえはずっと雲の上を歩いてきたんだから、少しでも俺と同じ場所に降りてきてくれよ」
綺麗な瞳は僅かに迷うような動きを見せたが、ふっとやわらかに細められた。
「君と同じ場所なら、喜んで降りるべきだな。――承知した」
「忘れんなよ……」
語尾は欠伸と共にしぼんだ。もう目蓋が重くて持ち上げていられなかった。
「そうだ、春井くん。僕も里親のご両親にお会いして、君の幼い頃の話を聞かせて欲しいと思っているんだが、今度一緒に……春井くん?」
案の定、壮吾の目蓋はぴったりと閉じてしまった。刻の体温が温かくて、ひどく安心していた。
「眠ってしまったのかい」
声は聞こえているから返事をしたいのに、睡魔に引っ張られ唇も動かせない。
浮遊感の後、身体がふわりと柔らかな場所へ着地する。真綿で撫でられたような頬の感触は、刻のキスだろうか。
「ゆっくりおやすみ、春井くん」
――おやすみ、久須美……
甘くて優しい空気に包まれ、壮吾は微睡みの中、夢の中へと落ちていった。
なんだかロマンチックな夢が見られそうだと、感じながら。
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