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刻の意外な一面 10

 ――わ、なんか、目がウルッとしてきてる……  やっぱり、壮吾に褒められると「らしくない」状態になってしまうらしい。 「おまえさ、なんで俺が褒めるとそんなに照れるんだよ。生まれたときからその面《つら》なんだろ? 小さい頃は天使みたいだったし、可愛いとか綺麗とか、散々言われ慣れてるだろ」 「――確かに僕は、幼い頃から地上に降り立った天使のようだとか、芸術作品のようだとか褒めちぎられてきたよ。けれどね、君に言われると……もうどうにも照れてしまって、恥ずかしいような、いたたまれないような……そんな気持ちになってしまうんだ」  前半は盛大にツッコミたかったが、後半は可愛いことを言い出すものだから、口を挟めなくなった。 「恥ずかしい? ――いたたまれない?」 「うん。過去にそんな感情に襲われたことがないから的確な表現かわからないけどね」 「えっ、じゃあ初めてってことかよ」 「そうだね。他人を観察して想像することしかできなかったけれど、実際自分の中にその感情を自覚したのは、初めてだと思うよ」  驚いた。  ――こいつは出逢った頃から、凡人が持つような感情とは無縁な世界で生きてきたんだろうな、とは想像してたけど……こんなに可愛い一面を見せられて、俺にどうしろっていうんだよ……  生まれたときから住む世界が違う男。高い場所から民を見下ろしてきたが、ここにきてようやく同じ位置まで降りてきた、という感じなのだろうか。  ――まあでも、趣味で「懐に優しい無料探偵」なんかやってるくらいだから、民に興味はあったんだろうけど 「ところで春井くん、君、僕の幼い頃を知っているような口振りだったが、もしかして誰かに話を聞いたのかい?」 「え? ああ、少し前島ノ江さんに、お宝写真見せてもらったんだよ。おまえが三歳くらいのやつ。まじで驚いた、本当に天使みたいに可愛いんだもんな。実物をこの目で見てみたかったー」  薄闇の中で、刻の目が光った気がした。 「――へえ、君は写真を見たのかい。昔、乗治朗が島ノ江に請われて渡したという、あの秘蔵写真を」 「あ、おまえ知ってたんだ?」 「当然だ」  ドヤ顔の刻を見て、確かに、と思う。主人を神のように崇める島ノ江が、刻に関する事を報告しないはずがなかった。 「島ノ江さんがあの写真見て、心臓打ちぬかれた理由がわかったよ。日本全国津津浦浦、三歳のおまえに勝てる子供は探し出せないだろうなって思ったぜ」 「……本当に、そう思うのかい?」 「うん」  本心からそう思ってることを理解してほしくて、刻の目をのぞき込んで頷いた。刻は無言で壮吾の顔を見ていたけれど、コホン、と軽く咳払いをした。  二人の間に、沈黙が流れた。 「どうした、久須美」 「いや……確か、祖母か母か……どちらかだと思うが、当時の映像を所有しているはずだよ。見てみたいかい? 春井くん」 「えっマジ? そりゃ映像があるなら見たいよ!」  思わず前のめりになると、刻は満足そうに口元を緩めた。 「ふふ、それなら今度持ってきてもらおうか。祖母も母も、君に会えるのをとても楽しみにしているからね。皆で上映会というのも楽しそうだ」 「島ノ江さんや若梅さんも、一緒に見られたらいいな」

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