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おまけ・追加の魔法 (完)
こちらは魔法使いのスフ目線でのその後の小話です。
―――
「スフ。試験はギリギリ…ギリッギリで合格にしましたが、あなたにはいくつか反省すべきところがありましたね?」
スフは魔法使いの試験(時空科)に合格したのだが、合格発表後に1人だけ先生に呼び出されていた。
「…はい。まず最初に、"今"の世界座標と"目的"の世界座標が違うことを確認するべきでした。その確認を怠ったせいで、対象者を何度も同じ世界座標に送り出してしまいました…」
「そうですね。まずそこを確認するべきでした。あの方の望む世界は相手が自分を好きな世界でしたね。
"一番相手に好かれている世界"が"今"の座標と同じなのだと確認できていれば、目的地を"一番に愛情表現をしてもらえる世界"などに変更することで、あの方の望む別の平行世界へ案内することができたはずです」
「…はい」
しょんぼり項垂れるスフに、先生はふぅ…っとため息をついた。
「それに、肝心なのはその後です。せっかくあの方々はあなたの試験に協力して下さったのに…自分が試験に受かった喜びにかき消されて、失敗したお詫びすらしていないではないですか…」
「…!!私としたことが…!!
すいません!!今すぐ謝罪に行ってまいります!!!」
「あ、スフ…!」
「待ちなさい!」と止める先生の言葉など全く聞こえていないようで、スフは「ソイヤー!」と呪文を唱えると、その場から消えてしまった。
「……あなたの一番反省すべきところは、人の話をちゃんと聞かないところですよ」
残された先生がそうポツリと呟いたことなど、スフは知る由もなかった。
*
*
*
「ソイヤー!」と呪文を放ち、目的の世界座標に到着する。
目的地は、試験を行わせてもらったあの部屋。
あの時の相手・小太郎がこの場にはいるか不安だったが、スフが現れた15cmほど前に彼はいた。
「…眩しっ」
「あなたは!お久しぶりです!私、魔法使いのスフです!!」
スフが現れた際に放たれた光のせいで小太郎はまだ眩しいようで、後ずさり、目を細めながらチラッとスフを見ると「……あぁ」と呟いて目をしぱしぱさせた。
「以前、試験の際にご協力頂きありがとうございました。…私が失敗したにもかかわらず、お詫びもせずに申し訳ございませんでした」
「いや…別に…」
そう言いながら小太郎は何か思い出したように顔を赤くしたのだが、スフは相変わらず相手のそんな細かい変化には気づかなかった。
「…それで、お詫びと言っては何ですが…今度こそ、平行世界へ行ってみませんか!」
「……へ?」
スフの相変わらずな唐突な提案に小太郎は固まった。
「あの時何故失敗してしまったのかはわかっていますので、今度は間違えることはありません!!」
「え…ちょ…」
「ご希望はあの時のままでよろしいですか?あの方に好かれている世界…あの方に愛を囁かれる世界にお連れいたしましょう…!!!」
スフのその言葉に、さっきまで乗り気でなかった小太郎は一瞬目を輝かせた。
「…そんな世界、ちゃんとあんの?」
「もちろんです!私はちゃんと試験に合格しました!もう失敗は致しません!!」
「……や、でも…」
自信満々のスフに、小太郎の心は揺らいだ。
「…あの方にどんな愛の言葉を囁いてもらいたいですか?”好きだ”とか、”愛してる”とか…あなたの一番ご希望に合う平行世界へお連れいたしますよ…!」
ゴクリ…と小太郎が息を飲み口を開くと…
「…おい。またそんなロクでもないこと考えてるのか」
スフの後方にある扉がガチャリと開き、その奥から不機嫌そうな淳紀が現れた。
「……淳紀っ」
「あぁ!あなたは!!
いつぞやはお世話になりました!あなたのおかげで私は…」
「……」
頭を下げて礼を述べているスフの横を無言で通り過ぎ、淳紀は床にすわっていた小太郎を見下ろした。
「…おい。お前まだ別の世界に行きてぇのか」
「え?や、オレは…」
小太郎からそれを望んだわけではないのだが、一瞬でもスフの提案に心を惹かれてしまった後ろめたさからか、敦紀から顔を逸らして俯いた。
「……っ」
しかし敦紀は、そんな小太郎に苛立ったように小太郎の顎をすくうと、無理やり自分の方へと顔を向かせた。
「お前が好かれたいのはオレだろ?オレが好きだって言ってんのに、別の世界のオレに好かれてどうする気だ?だいたい別の世界のオレなんか、オレであってもオレじゃねぇ。
お前はオレのもんだろ。
…オレ以外に好きとか言われてぇならぶっとばすぞ」
そんな敦紀の言葉に「行かない!行かないから!!」と小太郎が慌てて叫ぶと、敦紀は満足そうに笑い小太郎の顎から手を離した。
「…そういうことだ。二度とこいつを変なとこ連れてこうとすんじゃねぇぞ」
そう言いながら敦紀にシッシと手で払われて、スフは「ひー!」と叫びながら逃げるように飛び回ると、小太郎の右肩あたりに止まった。
「……小太郎様。ごめんなさい、私が至らないばっかりに、あの方に怒られてしまって…」
「…いや、うん。大丈夫だよ」
そう言って優しく微笑む小太郎にスフは余計に申し訳なくなってしまった。
「…もし小太郎様がお望みでしたら、あの方のいない時にもう一度こちらに伺わせていただきますよ?」
スフは敦紀に聞こえないようにそう小声で言うと、小太郎は今度は迷うことなく首を横に振った。
「……オレはもういいよ。敦紀の言う通りだし…それに、スフさんのおかげで割と願い叶ってるから」
「へ…?」
見上げればそこには顔を赤くした小太郎と、その奥でスフに睨みを利かせている敦紀。
魔法なんか使わなくても、スフが来るたびにスフのおかげで敦紀が小太郎に好きだと言ってくれてるのだが…
周りの見えていないスフはそんなことには全く気付かずに
(この御恩はいつか必ず…!)と勝手にまたこの部屋に来ることを誓いながら、魔法世界へ戻っていったのであった。
終 2016.12.25
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