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しあわせのかたち6
「黙って左手を出せ」
黙ったままでいたら聞いたことのない不機嫌さを凝縮した声で指示されたので、素早くそれに従う。
差し出した左手を小林は硬い表情を崩さずに優しく握ると、薬指に指輪をはめた。
「あれ? おかしいな」
「随分と緩いですね。サイズが違うんじゃないですか?」
「きちんと測ったぞ。暗闇の中だったが」
小林の言葉に苦笑いを浮かべながら指輪を抜き取って、他の指にはめてみた。
「指輪がぴったりの場所が分かりましたよ」
「げっ! 人差し指!?」
目を瞬かせ、指輪と自分を交互に見る小林の表情が面白くて声を立てて笑った。それまで考えていた竜馬の中にある不安をかき消した恋人の失態に、どうにも笑いが止まらない。
「小林さんらしいドジっぷりですね。これはもう俺が一生傍にいて、世話をしないと駄目でしょう?」
「まるでプロポーズみたいだな」
「そのつもりでしたんです。結構呆れながらですけど」
白い目で見つめられる中、小林は竜馬の左手をぎゅっと握りしめ、薬指に口づけを落とした。
「そんな顔して迫られたんじゃ、受けないわけにはいかないだろ」
「素直にイエスと言えばいいものを。指輪のサイズ直しのついでに、小林さん用を俺が作ります。それができあがったら、ふたりきりの結婚式をしませんか?」
いきなりの提案に、小林の瞳が嬉しげに細められた。竜馬の提案をそのまま飲むと思ったのに。
「健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのと、っ!」
小林が口にしたのは意外なもので――厳かに告げていた言葉を止めるべく、慌てて竜馬の唇を押しつけて塞いだ。
「もう! 指輪ができあがってからだと言ったのに、どうしてこうも先走るのやら」
「だって、嬉しくてつい」
目尻を下げてデレッとした小林に、これ以上文句を言っても無駄だと悟った。
「お前と一緒に住んだら、毎日どやされるんだろうな。そういう新婚生活も悪くはないか」
「俺はただ、深く愛し合いたいだけなんですけどね」
心底呆れ果てた竜馬を宥めるように、小林が顔を寄せてそっと口づけた――夕日がふたりのシルエットを色濃くする。
ふたりがしあわせのかたちを手にしたとき、あたたかい炎が明るい未来を照らしていく。しあわせに満ち溢れる人生を、仲良く並んで歩んでいくために。
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