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しあわせのかたち5
「……指輪」
よく見ると内側には、付き合った日付が刻印されていた。摘まんで指輪の表面を眺めたら、水面が波打ったようなデザインが施されていて、沈みかけの夕日に照らすとまるで――
「お前の想いは業火だと言ってたから、炎をあしらってもらったんだ」
「炎。緋色の炎……」
あたたかみのある炎が、きらきらと揺らめいているように見える指輪。それを見ているだけで竜馬の心の中に、何とも言えない想いが沸々とこみ上げてきた。
以前の恋のときには温度の高い蒼い炎が燃え盛り、冷静な判断力を失っただけじゃなく、大好きな人を傷つけてしまった。そんな罪深い想いを、地獄の業火として表現した。
(それを見える形で、こんな風に手渡されるとは思わなかった)
「分不相応です。こんな高価なものは受け取れません」
「やっ、そんなに高いものじゃないから気にしないでくれ。貰ってくれないと困るんだ」
打ちひしがれた顔の竜馬に小林が泡食って説得したのにもかかわらず、無言で力なく首を横に振った。
「小林さんは俺といて、幸せですか?」
「な、に言ってんだよお前……」
「ははっ! 今までが幸せすぎて、怖くなるときがあるんです。俺じゃない誰かと一緒にいたほうが、小林さんが幸せなんじゃないかって」
今にも泣きだしそうな笑顔で告げた竜馬を横目で見、ため息をついてから小林が口を開く。
「指輪、返してくれ」
その指示に従うべく恐々と指輪を差し出したら、真顔で引っ手繰るように奪われた。日頃温和な恋人の荒々しい態度に、竜馬は固まるしかなかった。
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