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第5話

待ち合わせの駅で、凪と会った。 凪は相変わらず格好良くて。僕を待っている間に、女の子のグループから声を掛けられていた。 「水族館に僕となんて、本当に良かったの?」 「……うん。理央とだから、来たかったんだよ」 「……」 凪は、男の僕でもドキッとするような台詞をサラリと言う。 僕が知らないだけで……普段の凪は、仲の良い女の子達にもこんな台詞を吐いたりするのかな…… 駅で凪を取り囲む女の子達を思い出し、胸の奥がズクン…と痛んだ。 ……何だろう、この気持ち。 駅から程近い水族館。 カップルや家族連れが多い中、男二人が肩を並べ、案内マップを見ながら順路に沿って歩く。 幾つも並ぶ水槽のひとつひとつを凪と一緒に覗き込み、指を差して笑い合う。 トンネル水槽をくぐり、サメや回遊魚のいる大きな水槽の前に辿り着いた時には、あのモヤモヤとした気持ちはすっかり無くなっていた。 「……綺麗だね」 「うん……」 水槽の前に、凪と二人で並ぶ。 ふわり、ゆらり、と水中に浮かぶのは、蒼白く透き通ったクラゲ達。 水槽内の光を浴び、涼しげで優雅に漂う姿は、何とも幻想的で……… 「何時間でも見ていられるよ」 「……うん」 凪の言葉に生返事をした後、ふと我に返って隣に視線を移す。 ──ドキンッ 優しげな凪の黒瞳が、真っ直ぐ僕を捕らえていた。 もしかして凪、……クラゲじゃなくて、ずっと僕を……? そんな事、ある訳ないのに。 そう思ってしまったら、急に恥ずかしくなって。慌てて視線を水槽に戻した。 「……」 ふわふわとする、無数のクラゲ。 ゆらゆらと水中の光が揺れ、僕と凪も、その一部に取り込まれたような、不思議な感覚に陥る。 不意に。 僕の指先に、凪の指先が絡まり。 手のひらに、凪の手のひらが重なる。 熱くなった手のひら。 どくん、どくん、どくん……と、心臓が鼓動を打つ。 指先に感じる、甘い痺れ。 「……理央」 僕だけに聞こえる、凪の声。 「好きだよ、理央」 その声はとても甘くて。 僕の心を、切なく震わせた。

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