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第6話
「喉、渇かない?」
出口に程近い休憩所で、僕をベンチに座らせた凪が僕の顔を覗き込む。
「……うん」
「何か買ってくるよ」
そう言って笑顔を残し、凪が自販機のある方へと消えていく。
クラゲの水槽前で、繋がれた手。
今も凪の感触や温もりが残っていて……胸が熱い。
沢山のクラゲを見た興奮と凪の甘い囁き声が入り混じり、まだ頭がぼーっとして、頬が火照ってる気がする。
少し熱を冷まそうかと、お土産コーナーの裏にあるトイレへと向かった。案内表示のある角まで来た時、その奥から聞き覚えのある男女の声が耳に入った。
「……アハハ。塚原、まだ理央ちゃん落とすの諦めてないの?」
「まーな。罰ゲーム、まだクリアしてねーし。……つーか凪。お前もだろ」
──え……
全身から、血の気が引く。
一気に熱が冷め、現実を突き付けられる。
目に映る全ての景色がぐにゃりと歪み、……眩暈がした。
どういう……事……?
トン……、
後退った僕の背面に、後ろを歩く人の腕がぶつかる。
「……す、すみません」
謝る僕の間接視野に、角から姿を現した凪が、此方に気付いて──
堪らず、その場から立ち去る。
凪と過ごした時間が、床に落とされた硝子細工のように、粉々に砕け散る。
あの優しさも……謝罪も……告白も……
全部……全部、嘘だったの……?
「……理央?」
背を向け、出口に向かって走る僕の前方から、缶ジュースを二本持った人影が現れた。
──凪。
「どうしたの」
「……」
「そんなに慌てて……」
驚いた顔。
しかしすぐに眉尻を僅かに下げ、戸惑いと不安の入り混じった表情に変わる。
一体何があったのか、皆目見当もつかない。……そんな雰囲気を残して。
「……」
……何で。そんな嘘をつくの……?
さっき僕と目、合ったよね……
眉根を寄せ、凪をじっと見据える。込み上げてくる寂しさを押し殺して。
温もりを失い、じりじりと痺れる手のひら。
肩で大きく息をし、ぐちゃぐちゃになった頭と心を、それでも何とかクールダウンさせようとした。
……あれ……
ふと、違和感に気付く。
……おかしい。
どう考えてもおかしい。
さっきまで凪は、両手に何も持っていなかった……
それに、カースト上位グループ達と一緒に、僕のずっと後ろを歩いていた筈──
「……凪……」
「ん……?」
「凪は………誰、なの……?」
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