6 / 9

第6話

「喉、渇かない?」 出口に程近い休憩所で、僕をベンチに座らせた凪が僕の顔を覗き込む。 「……うん」 「何か買ってくるよ」 そう言って笑顔を残し、凪が自販機のある方へと消えていく。 クラゲの水槽前で、繋がれた手。 今も凪の感触や温もりが残っていて……胸が熱い。 沢山のクラゲを見た興奮と凪の甘い囁き声が入り混じり、まだ頭がぼーっとして、頬が火照ってる気がする。 少し熱を冷まそうかと、お土産コーナーの裏にあるトイレへと向かった。案内表示のある角まで来た時、その奥から聞き覚えのある男女の声が耳に入った。 「……アハハ。塚原、まだ理央ちゃん落とすの諦めてないの?」 「まーな。罰ゲーム、まだクリアしてねーし。……つーか凪。お前もだろ」 ──え…… 全身から、血の気が引く。 一気に熱が冷め、現実を突き付けられる。 目に映る全ての景色がぐにゃりと歪み、……眩暈がした。 どういう……事……? トン……、 後退った僕の背面に、後ろを歩く人の腕がぶつかる。 「……す、すみません」 謝る僕の間接視野に、角から姿を現した凪が、此方に気付いて── 堪らず、その場から立ち去る。 凪と過ごした時間が、床に落とされた硝子細工のように、粉々に砕け散る。 あの優しさも……謝罪も……告白も…… 全部……全部、嘘だったの……? 「……理央?」 背を向け、出口に向かって走る僕の前方から、缶ジュースを二本持った人影が現れた。 ──凪。 「どうしたの」 「……」 「そんなに慌てて……」 驚いた顔。 しかしすぐに眉尻を僅かに下げ、戸惑いと不安の入り混じった表情に変わる。 一体何があったのか、皆目見当もつかない。……そんな雰囲気を残して。 「……」 ……何で。そんな嘘をつくの……? さっき僕と目、合ったよね…… 眉根を寄せ、凪をじっと見据える。込み上げてくる寂しさを押し殺して。 温もりを失い、じりじりと痺れる手のひら。 肩で大きく息をし、ぐちゃぐちゃになった頭と心を、それでも何とかクールダウンさせようとした。 ……あれ…… ふと、違和感に気付く。 ……おかしい。 どう考えてもおかしい。 さっきまで凪は、両手に何も持っていなかった…… それに、カースト上位グループ達と一緒に、僕のずっと後ろを歩いていた筈── 「……凪……」 「ん……?」 「凪は………誰、なの……?」

ともだちにシェアしよう!