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第9話
ピピピ……ピピピ……
目覚ましの音で、目が覚める。
重い瞼を持ち上げれば、目の前には読みかけの文庫本があった。
どうやら、読みながら寝落ちしたらしい。
『リピート』──想いを寄せていた女性を交通事故で亡くした男が、過去に戻ってその運命を変えようとする話。
リピート先で彼は、彼女と会えた嬉しさから、引っ込み思案の自分を押し込め、彼女に声を掛ける。何度か話し掛けるうちに仲良くなり……やがてデートをするまでの仲になる。しかし、彼女との会話の中で、自分の知る過去とは違うものにすり変わっている事に気付く。
そして運命の日。彼女の身に、何も起こらなかった。彼女の運命自体が変わり、助かったのだと彼は胸を撫で下ろす。
しかし、その数日後。二人の目の前に、突然暴走した突っ込んできて──
身を挺し彼女を守った彼は、その場で命を落としてしまう………
「……」
閉じられた本を引き寄せて見れば、その表紙がくしゃくしゃに寄れていた。
……何だか凄く、不思議な夢を見た気がする……
ゆっくりと瞬きをし、その欠片を探ってみるものの、何ひとつ思い出せない。
ベッドを下り、本を手にしたまま鞄を探す。
「……」
あれ……
こんなの、付けていたっけ……
鞄にぶら下がる、身に覚えのないクラゲのキーホルダー。
そっと触れれば、ふにふにとした気持ちのいい感触が指先から伝わる。
──その瞬間。
バチンッ、と脳内に火花が散った。
そして直ぐに、柔くて甘い……電流のようなものが、体中を駆け抜けていく。
脳裏に、眩い程の光に包まれた人影が、ぼんやりと映った。
……理央……
何処か懐かしい、響き。
不思議な感覚だけが僕の中に渦巻き、すぐに抜け去っていった。
学校には行きたくない。
もう何度、そう思っただろう。
洗った上履きを袋から取り出し、履いていた靴を下駄箱に仕舞う。
高校生にもなって、凄く下らない。
だけどその下らない虐めに、僕の心は確実に蝕んでいる。
………もう、疲れた。
肩を落として溜め息を漏らすと、背後に人の気配を感じた。
驚いて振り返れば、色白の頬をピンク色に染め、流し目をした高波が、すぐ後ろに立っていた。
「……おはよ、神木」
ポソリと、凄く不器用に告げ、唇の端を少しだけ持ち上げてみせる。
恥ずかしいのか。頬だけではなく、首元までピンク色に。
鋭いながら、いつもとは違う、少し柔らかな眼差し。
視線が合えば、高波の目が一瞬見開かれ、綺麗な黒瞳が直ぐに反対側へと移る。
そしていつもの無表情に戻り、フィっとそっぽを向いて行ってしまった。
「………おはよ」
届かない程の小さな声で、高波の背中に返す。
僕を虐める、塚原の友達。カースト上位グループの一人なのに……
いつもの冷たい印象が崩れ、何故か解らない……胸の奥に、懐かしいような温かいものを感じた。
-END-
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