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第8話 潮
先端からずずず、とすべてが旭くんのナカに入り込む。旭くんの頬が赤らんでいる。
「あ、さひくん……ああっ」
俺の上で旭くんが腰を動かすたび、ぱちゅ、ぱちゅと重なっているところから音が響いた。
「せんぱい……っ!」
引っ掻かれた痕の残る胸元に、またギギ、と爪を立てられる。
「先輩。からだ起こして」
旭くんの命令通り震える腕を支えに上体を起こすと、首に腕を回されドキリとした。とても近い距離に旭くんの顔がある。
汗のにじんだ額。半開きの唇。赤い頬。潤んだ瞳。
その顔に見とれていると近くにあった旭くんの顔が視界から消えた。
いや、ジンジンと頬が痛む。俺が頬を打たれて視線の位置が変わっただけだった。
旭くんが俺の頬を打ちながら、腰を動かしている。頬を打たれるたび、ジィンと甘い痺れが襲う。打たれて続けている右頬はじんわりと熱い。
「旭くん……旭くん!」
「斎藤先輩……く、うっ」
旭くんの形のいい眉毛が寄せられ、俺のお腹が濡れた。旭くんの精液だ。
それを見ているとまたパチンと、強く頬を打たれた。
「ああ……っ」
その衝撃で俺もゴム越しに旭くんの中にすべてを出しつくす。
それを自分の中で感じたのか旭くんは俺の上から降りて、俺のそこにまとわりついているローションと精液でぐちゃぐちゃになったコンドームを外した。
射精を終えたあとの倦怠感と、旭くんより後にイケたことへの達成感にぼんやりとしていると、旭くんがまだ少し芯のあるそこを掴んできた。
「斎藤先輩……もう少し、がんばってくださいね」
「旭くん?」
出したばかりの先端にローションが垂らされ、また強く刺激を与えられた。亀頭部分をグチグチとピンポイントにしごいてくる。
ヒリヒリ、いやビリビリとするような痛みが襲う。射精したばかりの先端に触れられるのは辛い。
辛さにからだを動かすと、旭くんから動くなと命令される。じっとして旭くんに与えられる刺激だけをただ受け、指先だけがヒクヒクと痙攣した。
それでもその不思議な痛みを伴う刺激に、ぞわぞわとした気持ちよさが沸き上がってくる。
射精しそうだと思った瞬間だった。
「ひ、ヒィッ! あさ、あさひく、い、く……イクゥああっ?!」
射精感が迫ったあと、ガクガクとからだが震え透明の液体が溢れだした。
普段の射精とは違う、まるで射精と放尿を一度にしたような、不思議な、それでいて強烈な快感。
汗にまみれ、ぐったりと天井だけを見ていると視界に旭くんの顔が映り込む。
「ちゃんとできましたね」
「あさひくん……これ、なに」
「潮吹きですよ」
ああ、これが。という感じではなく、あまりの強い快感にぼんやりとして頭が働かない。
ぐったりとしている俺をよそに、旭くんは床に落としたままのパンツを穿いた。
「じゃあ俺、このテキストの続きやりますね。その間、斎藤先輩はクッションになってもらえますか?」
「はひ……」
そういえばこの部屋クッション無かったな、と少し冷静になった頭で考える。
俺の顔に旭くんの小ぶりなお尻が乗った。それが不服だったのか、でもこれはこれでご褒美に近い気もする。
パンツの生地から香る柔軟剤にまじり、旭くんの少し蒸れたにおいがする。
その匂いを嗅ぐと、しょろりと残っていた潮が吹き出した。
さらにスン、と鼻を鳴らしその香りを楽しんでいるとパチンと腹を叩かれる。
「鼻息、荒いんですけど」
「ご、ごめんね」
俺は旭くんのクッションになることに集中する。
「ふふ、斎藤先輩……勉強はあとで教えてくださいね」
18時に勉強会はお開きになった。
昼の休憩を終え、またセックスもした。結局ちゃんと勉強ができたのかは分からない。それでも体も頭も使った男子高校生はお腹が減るのである。
「本当にいいんですか?」
「うん、今日は親父が遅くなるから、どうせなら……一緒に食べたらいいって」
なんとか旭くんを食事に誘うがこの近所にはラーメン屋かファミレスくらいしかない。
どうせならゆっくり話をしたいので行き先は駅前のファミレスだ。
俺は和風ハンバーグ定食、旭くんはデミグラスハンバーグ定食。そして一緒にドリンクバー、大盛りのフライドポテトを注文した。
恐ろしく早くフライドポテトが運ばれてきて、ジュースを飲みながら話をする。
「なんかあんまり勉強教えられなくてごめんね」
「いえ、俺もやり過ぎたというか」
今度はジュウジュウと音を立てハンバーグの乗った鉄板が運ばれてきた。
ファミレスの料理が運ばれるスピードは速い。
「ねえ、旭くんはいつ自分がそうだって気付いたの?」
サディストとは言わず、そう尋ねると旭くんはフォークを置いた。
「昔やってた戦隊モノで、戦国戦隊群雄ファイブって知ってます?」
「あー、それは見てなかったなあ」
いきなりでてきた特撮モノのタイトルに驚いたけれど、少し旭くんの頬が赤くなっていたので旭くん自身少し恥ずかしいのかなと思ってそれだけ伝えた。
「それのノブナガブラックが敵に捕まって拷問を受けるシーンがあったんです」
旭くんがサイダーを飲む。俺も注いでいたウーロン茶を飲んだ。
「それを見て、俺もやりたいって思ったんです」
「そうなんだ」
「斎藤先輩は?」
「俺も似たような感じなんだけど。小学生の頃に告白されてそれを断ったら女の子に殴られてちょっと興奮したんだよね。でもそれがなんだか分からなかったんだけど……親父の持ってたAVが女王様モノで、それを見て俺もされたいって思ったんだよね」
「へえ」
「だから、旭くんと初めて会った時、俺のアレ踏み抜かれて……あ、この人ってそうなのかなって思ってさ。だから、ダメもとで告白して本当によかったというか……えへ、何言ってんだろう俺」
喋り過ぎだ。恥ずかしい。ウーロン茶を飲もうと思ったらグラスにはもう残っていい無かった。
「俺、女じゃないですけど。いいんですか?」
「え?」
「斎藤先輩は、女王様が好きなんでしょう? 俺、女じゃないんですけど」
ああ、もしかするとたまに見せる旭くんの不満げな表情の原因はそこだったのだろうか。『女王様』確かにそれは女性を指す言葉だ。
「あ、ごめん。でも、なんだろう……男とか女とかもう何も考えてなかったや。旭くんは俺の……ご主人様だね」
「な、何言ってんっすか!」
真っ赤になった旭くんがサイダーを飲み干し、自分のグラスと俺のグラスを持って立ち上がる。
「ウーロン茶でいいんですか?」
「うん。あ、ありがとう」
旭くんは耳まで赤くしてドリンクサーバーの所へ向かった。それを見送って、なんだか俺まで顔が赤くなってくる。
あんなにかわいいのって反則なんじゃないだろうか。
部活の癖なのか、普段から礼儀だとかそういうのに気を遣う旭くんがほんの少し敬語を崩しただけでそう思うなんて、やっぱり俺は旭くんのことが好きなんだろう。
旭くんが戻ってきた後、残っていたハンバーグとポテトはすぐに食べ終えた。でもどうにか旭くんと喋る時間を延長したくて、俺はデザートを頼むため店員さんを呼ぶボタンを押した。
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