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第10話

 大和はの職業は、通称マトリと呼ばれる麻薬取締官だった。薬物の犯罪を捜査する厚生労働省の特別な職員だという。   年齢も嘘だった。実際は三十歳で三十四歳と偽ったのはバツイチの信憑性を持たせる為で、バツイチと嘘をついたのは苦労人の涼に親近感を持たせる為だったという。性格も涼に警戒心を持たせない為の演技。 結局、全て嘘だったという事だ、涼への気持ちを除けば。 「俺は狡い男だ。借金は完済すれば、きっと君が連絡してくれると思った。もしそれで連絡が来なければ、スッパリ諦めようとしたんだ。けど、駄目だった。どうしようもなく君を好きになっていた。事件関係者を好きになるなんて、捜査官失格だ」  大和は苦笑いを浮かべている。 「大和さんの気持ちが嘘じゃないなら、もういいんです」  大和の肩口に顔を埋めると、大和の逞しい腕に力がこもり、抱き寄せられた。 「あの……借金ありがとうございました。少しずつ返していきます」 「いいんだ。君を騙してしまった罪を償わせてくれ」 「ダメです。それはそれです」 「君は結構頑固だよな。一度言った事は覆さない」  そう言って触れるだけのキスをされた。 「君がいつ、兄の言うまま風俗に落ちてしまうか冷や冷やしたよ」 「やりませんよ……」  不意に違和感を覚える。 「なんで兄さんとした風俗の話し知ってるんですか?」  ハッとしたように、大和は口元を手で覆った。涼の中で嫌な予感が過ぎる。 大和は申し訳なさそうにすると、 「ゴメン、君の部屋には盗聴器が……」 歯切れの悪くそう言った。  涼の顔が熱くなる。  それは、涼が大和をオカズに自慰行為をしていた事が筒抜けだったという事だ。 (名前、呼んでたし、俺……)  その事を思い出し、恥ずかしさの余り布団を頭からすっぽりかぶってしまった。 「思えばあれから俺は君を意識し始めた。大丈夫、俺も君を何度も犯す妄想してたから」  その言葉に涼の顔は更に熱くなった。 「プライバシーの侵害! 変態! ムッツリ!」 「悪かったって。顔出してくれ」 布団の隙間から顔だけを出すと、佐川の手が伸びてきた。 「髪、だいぶ伸びたな。切ってやる」 愛おしむように頭を撫でられ優しい笑みを向けられれば、許せないはずがなかった。  ベランダに出ると外は汗ばむ陽気。大和は涼を座らせると髪を切り始めた。後ろから伸びる大和の手の感触と、穏やかな日差しに眠気が襲う。 「幸せ……」 そう呟いた涼の声が耳に入る。涼の顔を覗き込むと穏やかな寝息を立て眠っていた。 「寝言か」 そんな涼が可愛くて、大和はそっとキスをした。  ――恋の始まりは大嫌いな嘘からだった。 それなのに、愛したのは嘘つきなあなたでした――

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