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あれから、ガラドアと毎日の様に折り紙をするようになった。
最初は毎日飛行機を作っては飛ばし、作っては飛ばし…を繰り返していたが、飛行機の形を微妙に変えて工夫してみても数日もすれば折れる飛行機のパターンもなくなって、最終的には飛行機なんだかよくわからない形のものになってた。まぁ、それはそれで楽しかったんだけど。
飛行機で遊び倒した後は、一緒に鶴を作ってみた。
ガラドアは飛行機よりも細かいその作業に苦戦していたのだが、後から参加したガウがすぐに綺麗に作り上げたもんだからあまりの悔しさに怒るというより、泣きそうになっていた。
慰めるように頭を撫でると一瞬目を瞠ってからすり寄って来てとても愛らしかった。
それからはサイコロを作って転がしたり、紙相撲をしたり…時には長めの紐を輪にしてあやとりをしたりした。
どれもガラドアにとっては新鮮なものらしく、何を教えてもぴくぴくと耳を揺らし、目を輝かせながら夢中でやっていた。
ガラドアは頭を撫でられるのが好きなのか、撫でる度に目を細めたりすり寄っては来るのだが、それでもなぜかオレが触れる度に一瞬驚いた顔をしていた。
だけどあやとりをする頃にはそれもなくなり、自ら進んで手を握ったり、ぎゅっと抱き付いてくることさえあって、ガウにも「お前たちは仲がいいな」とまで言われるようになった。
(きっと自分に子どもか弟ができたら、こんな感じなのかなぁ…)
自分になついてくる姿は、人間ではないと分かっていても、とても可愛らしく、愛おしい。
仲良くなれたかなぁと思っていたが、自分で思うよりも他の人に言われる方が数倍実感がわいて、何か嬉しかった。
シスさんがもう一度やってきたのは、前回来た日から1週間経った時だった。
「エルタさんお久しぶり。相変わらず順調そうね」
「…お久しぶりです。よろしくお願いします」
相変わらずオレの返事を待つことなく診察を始めたシスさんは、「本当に回復が早い…」と驚いていた。
本来ならその言葉を喜ぶべきなのだろうけど、前回 "次私が来た時には家に帰れるかもね" そう言われていたから、オレの心中は複雑だった。
(次に何て言われるんだろう…)
今日で帰れると言われるのだろうか。そう考えるだけで、走馬灯のように長かったような短かったようなここでの生活が頭をよぎる。
シスさんの言動を固唾を飲んで見守った。
「…そう言えばあなたは家族と住んでるのかしら?」
足の状態を観察しながら、シスさんが呟いた。どきりとしながらも、正直に答える。
「…いえ、オレは孤児なんで…孤児院を出てからはずっと1人暮らしです」
「あら、そうなの…ごめんなさい」
「いえ…」
足の診察が終わったのか、ズボンの裾を綺麗に直された。
「家族がいて誰か側にいてくれるなら、もう家に帰ってもいいかなってくらいになってるんだけど…1人暮らしなら家事も全部自分でしなきゃいけないってことよね?お仕事は何してるの?」
「仕事は…ないというか…森に入って木の実や魚とかを自分で食べる分をとってきて、自給自足してる感じです。たまに多く採れた日だけそれを村まで売りに行く感じで…」
あまりにも貧しい生活の内容をシスだけでなくガウにも聞かれていることが恥ずかしくて少し俯くが、2人とも特に気にした素振りを見せなかった。
「…そう。流石にまだこの体で自給自足は無理だから、もう少しガウに面倒見てもらいなさい。家に帰れないのは残念だろうけど…でもまあ、このままいけばあと1週間したら大丈夫だろうから、次会う時には今度こそ帰れるわよ」
そう言ってシスさんにウィンクされる。
(今日じゃ、なかった…)
シスさんは"残念"と言ったが、どこか安心している自分がいた。
その後、今日の分の報酬を貰うためにシスさんはガウと隣の部屋へ籠ったが、覗くことはしなかった。
…前回のことを思い出すだけで苦しくて、とても見ようという気にはなれなくて…ガウが傷つけられないように、ガウがシスさんの血をのまないで済むようにと、それだけをただただ願った。
それからシスさんが帰っていき、送って行ったガウがしばらくすると戻って来た。
「あと1週間、か。シスがこの前そう言った時は実感が湧かなかったが…様子を見ながら杖をはずしてもいいと言っていたし、ようやく実感が湧いてきた。今日帰れないのは残念だったろうが…あと少しだ。良かったな」
「……」
ガウが珍しく少し微笑んでくれたのに、オレは苦笑いしか返せなかった。
(良かったな、か…)
体が早く良くなるのは良いことに決まっているのに、ガウにそう言われるのは辛かった。
(やっぱりオレに、早く帰って欲しかったのかな…)
ガウはきっと素直に回復を喜んでくれてるだけなのに、何故か悲しみばかりが溢れ出す。
最初はあんなにここから逃げ出して、家に帰りたいと思っていたのに…今となっては、まだ心の準備ができていないというか、帰る日が来るのが信じられない。
ガウやガラドアと過ごす今が、あまりに楽しくて幸せで…
こんな日々が終わってしまうのが、信じられなかった。信じたくなかった。
言い表せない不安にガウの方へ顔を向けると、微笑んだままこちらを窺うガウと瞳が合い、胸がぎゅうっと締め付けられる。
そしてようやく、オレは自分の気持ちに気が付いた。
家に帰りたくないわけじゃない。自分の家は、恋しい。
だけどそれ以上に
オレはまだ2人と一緒にいたい。2人と離れたくない。
…ガウと、一緒にいたいのに。
そう気が付いた途端、ガウと見つめ合っている今の状況にかぁっと顔が熱くなるのが分かったが、
今更そんな気持ちに気づいたからといって、どうすることもできない。
(それでも、帰らなきゃ…いつまでも迷惑かける訳にはいかないんだから…)
ガウは自分が怪我をしていたから、助けてくれていただけなのだから。
ここまで良くしてもらったのに、これ以上望んだら、きっとバチが当たる。
…それに何より、ガウはオレが帰ることを望んでいる。
「…早く帰れるように頑張るね。ガウ、本当に色々ありがとう」
「あぁ…」
無表情のようでいて以前よりもだいぶ柔らかくガウのその表情に、胸がぐっと熱くなる。
期限は残り1週間。
あとどれだけ一緒にいて、あとどれだけこの綺麗な顔を、瞳を、見つめることができるのだろうか。
ガウが隣の部屋に消えていくまで、零さないように目と胸に焼き付けた。
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