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いーち
早朝。
それはもう元気なジイさんバアさんしか起きてないであろう早朝。
俺は鳴り止まないインターフォンの音で目覚めた。
ブラック企業に就職して早数年。
仕事仕事で日曜だろうと出勤させられ、昨日だって手当てのつかない残業を押し付けられて、結局家に着いたのは一時過ぎだったんだ。
そんな中もぎ取った久しぶりの休日だというのに、こんな時間に起こされるとは。
明らかな寝不足で、視界が周り足が縺れるなか玄関まで辿り着いた俺は、未だインターフォンを鳴らし続けている非常識な来訪者への苛立ちを込めて、勢いよくドアを開けた。
「ちょっと、なんですかこんな朝早くに!」
「すいません吉田さん。どうしても頼みたいことがあって!!」
一体どんな非常識野郎がいるのかと思えば、一年半程前隣の部屋に越してきた、一条君だった。
俺が知る中でも随一の好青年である彼が顔を真っ青にしているので、余程の事があるのだろうと俺は早々に怒りを何処かへ捨てて、寝不足ながらに真剣な心持ちで彼に相対した。
「付き合ってください!」
ぴっしりと九十度のお辞儀を披露してくれた一条君から、何か凄く聞き逃してはいけないことを言われたが、全神経でもってスルー。
すると、俺が黙り込んでいたからか一条君は更なる行動に出た。
「お願いします!!」
両膝、両手、そして額を地面につけるその姿は、土下座。
………………土下座!?
え、土下座!?
俺の会社でさえ殆ど見ることの無い、日本最敬礼の土下座!!?
あの五月の空より爽やかな笑顔の一条君が、土下座!??
ナンデ!土下座ナンデ!!!?
脳内で土下座が躍り狂っている俺の前で一条君は正座を崩さないまま上体を起こす。
そして鋭く俺を見据えると運動部も斯くやの声量でもう一度言った。
「お願いします!付き合ってください!!!」
寝不足の脳を襲う大音量。そして再び土下座の形になった一条君。混乱の極みに到達して黙りこくった俺。
何秒かの沈黙があった、直後。
「あ゛!!!!」
「ぅわっ!!!!」
一条君が素早く立ち上がり、ガシッと俺の肩を掴む。
開ききった瞳孔で見つめられた俺は蛇に睨まれた蛙。少しの身動きもできない。
俺の怯えが伝わったのか三度地べたに座った彼は、頭を極限まで下げて叫ぶ。
「ごめんなさい!!!!!」
これぞカオス。もう訳が分からない!!
「説明させて下さい!!!!!」
一瞬飛びかけた意識が、説明、の言葉にぐっと引き戻される。
そうです。俺は今とてつもなく説明を欲しています。
そうして説明をうけて漸く、この事態が何なのかが分かった。
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