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第8話

 せめて本気なのだと、もう一度伝えたかった。  冷静に、  誠実に、  きちんと、  順番を踏まえて、  求愛するつもりだった。  ――なのに  全部。  全部。  ――嵐のような情動がすべてを根こそぎさらっていった。  発情している彼に他の男が……たとえαじゃなくても触れていることが耐えがたかった。  一気に理性が弾け飛んだ。  腸(はらわた)が煮えくり返るとはこういうことかと実感した。  頭に血がのぼって、気づけば普段の自分らしからぬ暴言を吐いていた。  警察官だろうがなんだろうが関係ない。  ――それは、私の、Ωだ。  触れるな  何人(なんぴと)たりとも触れること許さぬ  自分の中のどこかが焼き切れる音が聞こえた。  もう…そこからは、ただただ本能に従う獣と成り果てた。  欲求を押さえつけることなどできなかった。  自分のものにしなければ。  早く。  一刻も早く。  そんな、強迫観念にも似た強い欲求に囚われていた。  それでも、何年も言い聞かせられた約束を守ることだけは忘れなかった。  プライドなど捨てて、主のご機嫌取りをする犬のように、乞う。 「くびを咬んでいいですか」  私を番に。  君を番にしたい。  だが、無情にも、その求愛はまたもや断られた。  どこまでも拒絶する愛しい相手に、憎しみさえ募る。  許可なくうなじに牙をたてることこそしなかったが、――それ以外はすべて…おこなった。  思い知らせるように奥の奥まで暴き、幾度も熱い迸りをそこに叩きつけ、己の匂いが浸み込むほどにすべてを穢した。

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