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第7話
焦りもあってか、それからの夢川の行動は迅速だった。
何しろ初恋の相手の兄と彼はすでに接触している。
恋など――一瞬の出会いでも落ちるものなのだと、他の誰でもない自分がなによりも知っている。
もう遅すぎるだなんて、思いたくなかった。
「君に、結婚を前提にした付き合いを申し込みます」
焦りのあまり、パーティーからたった数日のうちに場をセッティングし、気持ちを明かした。……後に友人にことの顛末を話したら、それはもう盛大に笑われ、しばらくの間、会うたびに話のネタにされたくらいのフライングっぷりだった。……それにしたって、かなり冷静さを欠いていたのは認めるが、あんなにも笑うことはないと思う。「早すぎる!」と何がツボに入ったのやら珍しくも笑い転げていた。隣で元風紀委員長が苦虫を噛み潰した顔をしていたのがやけに印象的だった。
肝心の秘書はといえば……、さすがに笑い転げはしなかったものの、ハトが豆鉄砲を食らったらきっとこんな顔をするだろう、という見本みたいな…なんとも間抜けで可愛らしい顔を披露してくれた。
彼にしてみたら寝耳に水だろうし、都合の良すぎる話だと思う。
案の定、プロポーズをウソ扱いされた上に、ドきっぱりと断られ、あの食い意地の張った彼が食事を中座してまで逃げ去った。
――セコイ手を使った報いかもしれないが、ひどすぎる。
食事と一緒に取り残されるなどという惨めたらしい扱いをされたのは生まれて初めての経験だったが、それ以上に、少しも気持ちが伝わらず考慮の余地もなく断られたショックが大きく、思った以上のダメージを食らっていた。
自業自得だと承知してはいるが、あんまりだという気持ちもあった。
確かに今までさんざん迷惑をかけてきた。
ふらふらしているつもりも騙されているつもりもなかったものの、……結果だけを見れば、これまでの恋愛関係や交際は決して褒められた軌跡を辿ってきてはいない。
彼にしてみたら「ふざけんな、寝言は寝て云え」という気分なのだろう。
しかし、過去の所業を悔やんでも、それは決してなかったことにはできない。
それどころか一番身近にそれを見てきて、あまつさえ尻拭いまでさせてきたのだから……冷たい扱いをされたところで甘んじてそれを受け入れるしかない立場である。
それでも――
やっぱりこのまま帰したくない……と彼の後を追った。
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