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いつもの朝 ①

 洋介っ、と自分の名前を呼び続ける母親の声を無視し、布団の中で少しでも長く留まろうと粘る。俺はほんまに朝が弱い。どっかの低血圧のOLみたいにしばらくだらだらしないと起きることができないのだ。  朝飯よりも睡眠を選ぶ。まあ、食べることも好きだけど。どうしても腹減ったら、哲夫(いつも人の3倍ぐらいの量の弁当を持ってくる友人)の弁当食えばいいし。  高校最後の年も3学期となり、受験モードの学生も多くなったせいか、学校生活もそんなに刺激がない。部活動も引退してしまったし、他に楽しみもないのでもうこのまま今日は休んでやろうかと掛け布団を頭まで被ったところで、自室のドアが開かれる音が聞こえた。  来たわ。 「洋介」  聞き慣れた声が上から降ってきた。毎日毎日、ブレもせずに俺を迎えに来る、隣に住む幼馴染み。どうせ抵抗しても最終的には学校に連れて行かれることは知っていたので、早々に諦めて布団から顔を出した。  工藤亜貴がいつもの笑顔で立っていた。ニコリと笑って挨拶される。 「おはよう」 「……はよ」 「はよ起きろや。またギリギリになんで。俺の皆勤賞がかかってんねんから」 「……行くのめんどいねんけど」 「あかんよ。学校行くんは学生の義務やろ」 「なにそれ。誰が決めたん?」 「俺」  はいはい、起きて~。そう言いながら布団を剥がされた。 「もう~」  ぶつぶつ言いながらも起き上がる。亜貴がクローゼットにかかっていた制服をさっさと取り出して寄こしてきた。渋々とそれを受け取って着替え始める。その様子をじっと見ている視線に気が付いて顔を亜貴へと向けた。 「何?」 「ん? いや、なんか、洋介、また伸びた? 背」 「ああ……分からんけど、伸びたかも」 「どこまで伸びるんやろ?」 「どうやろうなぁ? もうそない伸びひんのちゃう? 言うても」 「ええなぁ。俺にその数センチ分けて欲しいわ」 「分けられるもんなら分けてやりたいけどな」  そう言って、俺よりも20センチほど下にある亜貴の顔を見た。

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