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いつもの朝 ⑤

 9月らしい残暑の気配が漂う快晴の中、2人(というか亜貴が)急ぎ足で歩いていく。先を行く亜貴が振り返った。 「ちょお、洋介! もうちょいはよ歩けやっ!」 「え~、もうええやん、間に合わへんって~。早く歩くと疲れるやん、朝から」 「お前、運動部やろっ! もっと爽やかに動けんのかいっ。運動部やったら走っていけやっ」 「運動部やからって朝から爽やかに動けるやつばかりやないやろっ。俺は朝から汗なんかきたないねん」 「ほんまに……こんな怠けもんなんに、なんでバスケ部のエースなんやろ」 「もう引退してるし。……ちゅーか、遅刻したなかったら、俺置いて先行ったらええやん。皆勤賞かかってんねやろ? 俺と一緒に行く必要ないやん」 「…………」  拗ねたように亜貴に言葉をぶつけた。一瞬、亜貴が黙った。怒ったのかと思ったが、少し不機嫌な顔をしつつも、そのままつかつかとこちらへと戻ってきて俺の隣に並んだ。 「……どしたん?」 「もうええわ。遅刻しても」 「……ええの?」 「俺の皆勤賞よりお前と一緒に行く方がええ」 「…………」  いつもこうだ。亜貴は俺を最優先する。どんな時も。こういうところは昔から変わらない。そして、俺も。亜貴を試してしまう。俺を何よりも優先してくれる亜貴を。そしてそんな自分が。  どうしようもなく嫌だった。  亜貴の腕をぐっと掴んだ。 「洋介?」 「行こ」 「おわっ」  亜貴を捕まえたまま走り出す。亜貴の腕を掴む、俺の手が熱い。幼稚園の頃からしたら随分と成長したはずの亜貴の腕。なのに、女みたいに細くて柔らかいのは変わらない。高校生になってからそこに色気みたいなもんが加わって。俺の気持ちをかき乱す。 「洋介」  後ろから亜貴が息を弾ませながら話しかけてきた。 「なん」 「ありがとう」 「……ええよ」  もう、あとどれくれい。ただの幼馴染みとして、親友として傍にいれるだろう。気持ちを抑えたままでいられるだろう。  このままの関係でずっといられる自信は、もうなかった。

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