16 / 33

文化祭準備 ③

 哲夫と2人で牛丼でも食べてくか、と話しながら亜貴のクラスの前を通る。亜貴のクラスはまだ準備中だった。亜貴の姿も見えた。笑顔で周りのクラスメイトと会話を交わしながら店の飾りを付けていた。  ふと、違和感があり立ち止まる。じっと亜貴の動きを追う。  あいつ。  もしかしたら勘違いかもしれない。亜貴のことは何でも知っていると思っていた頃には確信が持てたが、今は自信がない。だから、思い過ごしかもしれない。  亜貴が視線に気が付いてこちらを見た。あっという顔をした後、にっこりと笑って近付いてくる。 「帰るん?」 「……おん。準備終わってん。そっちは?」 「あとちょっと」 「……そうか」 「俺ら牛丼食ってこうか言うてるんやけど、後からくる?」  哲夫がそう聞いたが、亜貴は残念そうな顔をして首を振った。 「準備終わってから用事あんねん」 「そうか、そしたらまた明日やな」 「おん。お疲れ」  そんな哲夫との会話を聞きながらじっと亜貴を見つめた。俺は先ほど感じた違和感を確かめようと口を開いた。 「亜貴……お前さ」 「工藤くーん! ちょっとここ手伝ってやー」 「おん、ちょお待って」  そしたらまたな、と引き止める間もなく亜貴が急いで準備に戻って行った。結局、俺はその違和感の正体を確かめることができなかった。  その夜、亜貴に何度か電話してみたが応答はなかった。しばらくすると亜貴からメールが届いた。 『ごめん。さっき帰ってきたとこやねん。ちょお疲れたからもう寝るわ』  時刻を見ると12時近かった。しつこく電話するのも気が引けたし、やはり気のせいかもしれないと思う自分もいた。俺は亜貴に連絡するのを諦めて、自分も寝ようと携帯を充電器に繋げて、なんとなくもやもやした気持ちのまま布団へと潜り込んだ。

ともだちにシェアしよう!