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文化祭 ②

 もの凄い勢いで、亜貴へと詰め寄る。 「お前、なんちゅー格好してんねんっ」 「あれ? 洋介?」  きょとんとした顔で見上げる亜貴に、俺は心臓が止まるかと思った。  なにこれ。めっちゃ、可愛いねんけど。  誰にしてもらったのか。元々の亜貴の特徴である大きい瞳や女みたいな顔立ちが最大限に際立つように施されたメイク。ちょっと首なんかかしげて。  お前は俺を殺す気かっ。と心の中で叫びながら話を続ける。 「なんでお前がメイドしてんねん」 「いや、人手が足らへんからって。女子に頼まれてん」 「お前、頼まれたからってなんでもほいほい受けるなや」 「なんで? 困ってるんやし、別に俺、女装抵抗ないし」 「いや、やけど……」 「洋介、悪いけど、今、めっちゃ忙しいねん。話は後聞くから」 「そういうことちゃうやろ。後でええことちゃうやろ」  そこで、客からすみませーん、と声がかかる。 「あ、はーい。少々お待ち下さいませ。ご主人様」  こなれた様子で亜貴が答える。急いでその客へと走り寄ろうとしたところで、亜貴が微かにバランスを崩した。それを俺は見逃さなかった。 「おわっ」  ふらついて、前のめりに転びそうになる亜貴の腕を素早く掴む。掴んだ亜貴の腕は燃えるように熱かった。 「……お前、ちょお来い」 「は? え? 何言うてんの??」  俺は有無を言わさぬ態度で、亜貴を引っ張って教室を出て行こうとした。 「ちょっと! 津田くん!!」  後ろから亜貴のクラスの女子生徒に呼び止められる。俺は振り返った。 「悪いけど。こいつ熱あるから。保健室連れてくわ。後、俺、手伝うから」 「え?? そうなん?? あ、ちょっ……」  最後まで返事を聞かずに亜貴を引っ張りながら教室を出た。周りの好奇な視線を感じたがどうでもよかった。出てすぐに、廊下で全ての顛末を見ていたであろう由美と目が合った。 「…………」  数秒、黙ったまま見つめ合った。俺はその沈黙を破った。 「ごめん……今日、一緒に回れへん」 「……分かった。ええよ」  表情を変えずに由美が答えた。  ほんま、ごめんな。もう一度由美に謝って、事態がよく飲み込めていない亜貴の手を引きながら保健室へと向かった。

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