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保健室で ②

 それにしても。  メイクをしたままの亜貴の顔。ほんまに女みたいやった。幼稚園の頃の『アキ』を思い出す。女だと勘違いして惚れてしまった『アキ』の顔。  しばらくじっと亜貴の顔を眺めていた。ふと、亜貴の表情が動いたと思ったら、何かむにゃむにゃと音を立てた。  なんやろう?と思っていると。 「ヨウちゃん……」 「…………」  亜貴が、俺の名前を呼んだ。昔の愛称で。ふふっと楽しそうに笑う。 「……なんやねん」  ほんまに。こんなん反則やん。こんなシチュエーションで。可愛い顔した亜貴にそんな風に呼ばれたら。  止められるはずがない。  俺はゆっくりと亜貴へと顔を近づけた。亜貴の、その柔らかい唇へとキスを落とす。しばらくそのまま重ねていた。そこから先。どうしようかと一瞬迷う。その時。 「ん……」  重ねた唇の奥で亜貴がくぐもった音を立てた。俺ははっと我に返ると、弾けるように唇を離した。  今、自分がしてしまったことが信じられなかった。ずっと、もう何年も抑えてきたのに。とうとう行動に移してしまった。  限界を超えた瞬間だった。  狼狽に似た感情が一気に押し寄せてきた。とりあえず、ここから離れたかった。一旦、気持ちを落ち着かせなければ。  亜貴の荷物をベッドの傍に置き、トイレで顔でも洗ってこようと急ぎ足で保健室を後にした。  部屋を出た瞬間に背中で小さく放たれた言葉になんてもちろん気づかずに。 「……ヘタレ」  そう。亜貴がゆっくりと目を開けて、そう呟いたことなんて。

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