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紫の章4
グアンが流石に不審に思ったらしく、心配そうに『陛下』に話しかける。
葵も、なんだ?と思い、紫の瞳を見つめ返してみる。
不思議に揺らめくその瞳を見ていると、あまりにも美しくて、そのうち、もっと近くで見てみたい、という要求が高まってきた。
この、心地良い香りをもっと近くで嗅いでみたい……あの人の、腕に収まってみたい……。
一度、思ってしまったら、そうしたくて堪らなくなってしまった。この体になってから、どうも我慢が利かない気がする。
葵は前脚を立て、後脚を蹴り上げてみると思った通りに跳躍できた。
そのまま、『陛下』の膝の上にふわりと着地して、『陛下』の首筋から出る濃厚な香りをスンスンと存分に堪能する。
(やっぱり良い匂いだな〜)
それから長い尾が不快なところに触れないように丸く纏めて、『陛下』の膝の上に納まりのいいように座り直す。
下から『陛下』を覗き込めば、心底ビックリしたような紫色の瞳とぶつかった。
(近くで見るとますます綺麗な瞳だな〜)
まわりから「おぉ!」「やはり、陛下は龍王だったのだ!」というどよめきが聞こえてくる。
人間の体の時は、人影に隠れるように生きていたが、今は全く気にならない。あまりにも状況が非現実的過ぎて麻痺しているに過ぎないのかもしれないが、何だか考え方も獣に近くなったような気がする。
『陛下』から堪らなくいい良い匂いがするので、思わず手の平を舐めてみた。普通に人間の皮膚の味だが、何だか美味しく感じるのは気のせいか…?
すると、『陛下』の目元が、一瞬ふっと緩んだ。
切れ長の目が、弧を描き、瞳の色が和らぐのを見て、
葵の心臓がドクンと跳ねた。
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