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黒の章1

「では、シィン。この間教えた事を説明してみなさい」  グアンが筆で書かれた古ぼけた地図のような物を取り出して、シィンを促す。  今日の葵はフェイロンの私室ではなく、星見の一族が暮らしている星見宮でシィンの勉強に付き添っている。  あの紫龍園で会った日から、どうもフェイロンの私室に居ずづらい。  夜はどうしても、私室で寝なければいけないので、せめて昼だけでもと行く当てもなく廊下でウロウロしていると、ある日シィンがこの星見宮に案内してくれた。  シィンの足元で紫龍草を食べながら、なんとなくグアンの話に耳を傾けるのが最近の葵の日課だ。    「はい!え〜と……この中央大陸は4つの国が存在します。  北に位置する一番大きな国がシィーファン。  西側にあるのがチーニャオ。  一番南にある小さな国がフーユー。  そして、東にあって、2番目に大きい国が、ここ、我がロンワン王国です。それぞれの国は、それぞれ異なる霊獣が祀られています!」 「そうですね。それぞれの国は山脈で線引きされており、その山を越えると霊獣の天罰が下るとされていますので国交はほとんどありません。  私たちの国は、このように青龍様が降臨されましたが、他の国では霊獣が降臨されたか、それはいつなのかは全くと言って分かりません。それは、なぜなのか分かりますか?シィン」 「え~と、昔の人達が戦争ばっかりしていたので、怒った天帝が霊獣様達を遣わして人を半分に減らしました。その後、『外に富を求めず、内なる祝福に感謝するように』と霊獣が4つの国それぞれを教え導いたので、それからは人々は国の中で出来る事を精一杯頑張るようになりました!」   クスリと笑って、グアンがシィンの頭を撫でた。 「ええ、概ね正解です。  他国の霊獣は他国の『祝福』なので、探るような行為は良くない事とされています」 「えへへ、でもグアン様~、霊獣様同士は別に仲悪くないんですかね?」 「どうでしょう、あまりそのような話は聞いた事がありませんね。他国の霊獣についての話題は良くない事とされていますが……北のシィーファンなどは、そもそも霊獣など存在しないという方が多くいらっしゃるお国柄のようなので、実際、青龍様以外の霊獣がいらっしゃるのかも良く分からないのですよね」  ふ~ん、と相槌をうったシィンがにっこり笑って言った。 「じゃあ、僕たちロンワンの民で本当に良かったですね~。こうして青龍様に会えるなんて大ラッキーなんですね!」 「ふふふ、そうですね。本当に私達は素晴らしい『祝福』を受けているといえますね。さあ、一回休憩にしてお茶を入れてきましょう。シィンは青龍様に追加の紫龍草を運んできてくださいな」  そう言ってグアンは席をたち、シィンも、青龍様ちょっと待っててね、と言って二人とも部屋から出て行ってしまった。  葵は何となく手持ち無沙汰で部屋を見渡す。  白を基調とした部屋には一つだけ、上の方に小さな窓がついていた。 (あれ?あんなとこに窓あったっけ?)   「なあ、あんた、いつまでそうやってるんすか?」  突如、誰もいないはずの部屋で話しかけられた。

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