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青の章10

「実際に見た者はいないんです。私が青龍様は恐らく元の世界に戻られたのではないかと陛下にお話したら、私の制止を振りきりそのまま部屋を出て行かれてしまったのです。後で見張りの者に聞いたら一目散に紫龍園の方に向かわれたようで……。 これはあくまで私の推測ですが、紫龍草は元々青龍様の法力の力を強める物、もしかしたら人間でも多少法力がある者なら、あちらの世界を垣間見れるのかもしれません。陛下がそうなのかは定かではありませんが…… 」  それが本当なら、フェイロンは恐らくあちらの世界に行ったのだろうという確信が葵にはあった。もしかしたら、葵とは入れ違いになってしまったのかもしれない。だがーー。 「では、もしあちらの世界に行ったとして、戻ってくるにはどうすればいいんだろう?」  葵の疑問に、グアンは難しい顔をして唸った。 「どうでしょう……そのような事例がない為分かりません。もし、あちらに紫龍草があれば戻ってこれるやもしれませんがーー」  あちらにあった数枚の紫龍草は千尋が全部食べたと言っていた。では、フェイロンが戻ってくる事は出来ないーー? 「そんな…… 」  絶望的な状況に血の気が引く。葵がもう一度あちらに行って、迎えに行けばいいのか?だがどうやって一緒に帰ってこれるか検討もつかない。第一、まずこの檻から出ないことにはーー。 「青龍様、大丈夫ですか?お顔の色がーー 」 「グアン……どうしよう、俺、フェイロンがいないと……」  不安で胸をかき抱く葵をじっと見つめると、グアンは何を思ったか突然袈裟を脱ぎ捨て、長衣の袷を緩め胸元をはだけさせた。 「グ、グアン? 」 「青龍様、我が一族の力は初代青龍様から頂いた力だという事は以前お話させて頂きましたよね。その力は星を読み取り、占を行う事と一般の者は思っておりますが、青龍様のお力がそんな些末な力なわけがございません。 まず先程お話しした通り、星見の長のみ、僅かですが天候を操る事が出来ます。そしてもう一つは、対峙する人物の過去を覗く事が出来るのです」 「過去ーー?」  そう言えば、シィンと再会したとき、そのような事を言っていた気がする。ふと、シィンが今どうしているか気になったが、今はグアンの話を聞くのが優先だと話を促した。 「ええ、自由にどんな過去でも見る事が出来るというわけではなく、目の前の人物が体験した過去を見ることが出来るのです。まあ、失せ物探しなどに役立てる事が殆どですがーー。子供の頃など、本人の記憶が曖昧な時の記憶も見る事が出来ます」  そう語るグアンを見て、葵はあっーーと息を飲んだ。 (グアンはフェイロンが前皇帝の血を引いていないの知っているーー )  

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