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青の章11

「陛下は今まで頑なに、私の力に頼ろうとはなさらなかった。ですが、先日青龍様がいなくなられて、すぐに私をお呼びになりました。その時、陛下の過去も垣間見えたのですーー」  固唾を飲んでグアンの様子を伺う葵に、グアンは優しく微笑んだ。 「青龍様、初めてお会いした時に申し上げた通り、我が一族は青龍様の僕でございます。青龍様が王と言えば、その方が王なのです。極端に言えば、青龍様が王などいらぬと言うなら王などいらぬのです」  熱のこもった瞳に見つめられ、狂信者という単語がチラリと葵の頭を掠めた。今葵に向けられた瞳はそれに近いように思える。  グアンは、はだけた胸元を葵に見せつけるように指差した。そこには丁度袈裟に星の刺繍が施されていた位置と同じ場所に、青い星の形をした入れ墨のような物が見える。 「青龍様がフェイロン王を求めるならば、私はそれに従うのみ。どうぞ檻から指を伸ばし、この『紋』に触れてみてください。この『紋』こそ星見の長のみ受け継ぐ青龍様にお分け頂いた力の源。元は青龍様の一部なのです。檻の外にいる私の『紋』を使えば、青龍様なら私には見えない物が見えるかもしれません。もしかしたら陛下をお助けする手立てもーー」  葵は食い入るようにグアンの胸元を見つめる。その『紋』はよく見ると薄暗い部屋の中でぼうっと光り輝き、まるでそれ自体が息づいているかのようだ。 「でも、どうやればいいか、検討もつかない……」 「この『紋』は私であって私でない。貴方様の一部です。どうか深く考えないで、見たい物を思い浮かべて触れてみてください」  考えすぎるな、と千尋にも言われた事を思いだした。どうも考え過ぎて自分から悪い方に向かう癖が葵にはあるようだ。 (とりあえず、やってみよう )  葵が手を伸ばす素振りをすると、グアンは触れやすいように檻のすぐ側まで胸を寄せてくれた。そっと人差し指と中指を檻の隙間から伸ばすだけでグアンの『紋』に手が届く。  触れたかな?と思った一瞬で世界の上下が反転した。と同時に竜巻のような風に引き込まれ、衝撃に歯を食いしばり必死に耐えている葵をどんどん上に押し上げる。ふいに宙に飛ばされた感覚にギュッと目を閉じると、思ったよりも優しい衝撃がドシンと葵のお尻に走った。どうやら、上に押し上げられていたのではなく、下に落下していたらしい。  混乱しながら、堅く閉じていた目をそっと開ける。葵が落ちた場所は所々に雑草が生えた比較的柔らかな地面だったようだ。 (あれ?)  ほのかに身に覚えのある香りが漂っている。香りがする方向に目線をやると思った通りのものがそこにあった。 (紫龍草ーー )

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