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★青の章19
ホンの荒い呼吸が耳元で響く。濃厚な支配フェロモンがますます強くなり、不快なはずなのに脳が痺れて全身が震えるような快感に包まれてしまう。
クロが横から胸の合わせに手を入れ、既に立ち上がった乳首を抓る。
「っんん!!」
途端イキそうになってしまうのをなんとか堪えた
「ほら、そいつをとっとと入れて噛んじまえ 」
クロが顎をしゃくったのが合図のように、ホンは自らの高ぶりを取り出した。アルファの発情時特有の形をしたえげつない代物だ。
(ーー嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!)
なんでフェイロンに番いたいと言われたときに、素直に頷かなかったんだろう。今度こそフェイロンに会って、ちゃんと話して、そしてーー。
あまりの絶望に酷く熱い身体と反し、頭から氷水を被ったように血の気が引く。高熱が出たような寒気と熱感の中、額の二カ所が妙に熱い。本能でここに力を入れては駄目だと分かった。だが、なんで駄目なんだろう?
(フェイロンと番になれない事以上に、駄目な事などあるだろうか?)
知らず額からマグマが流れ出たような感覚に陥る。触ってみるとそこには鉄を燃やしたように熱を持つ二本の角があった。触った手の平は一瞬痛みが走り火傷したかと思ったが、今度は手の平自体に火が這うように熱が移り、青い鱗が手から全身にだんだんと広がっていく。
遠くで雷の音が鳴っているのが聞こえた。
ここに雷が落ちてしまえばどんなにいいだろうかと思ったら、すぐ近くで地鳴りのような雷が断続的に落ちる。
「チッ!まずいなっ」
そう言うとクロは黒蛇の姿に変わり、するりとどこかに行ってしまった。隣で呆けるようにホンが葵を見上げている。
「馬鹿!!逃げろ!!」
細身で大柄な人物が、ホンを引きずるように部屋から追い出そうとする。一瞬畏怖と恐怖が入り交じった瞳と目が合った。
(ーーこれは誰だっけ?)
そう、グアンだ。グアンはなんて言ってたっけ?
成獣になって欲しいとか、言ってたような気がする。なぜそんな事をーー。
俺はもう、
青龍なのにーー。
建物が崩れる轟音と共に身体が天へ天へと伸びていく。
鱗が体中で弾けるように、電気を帯びてビリビリする。身体の中の台風のような渦が吹き荒れ、どんどん大きくなっていく。
苦しくなって口を開けてそれを吐き出すと、周りの木々や建物がどんどん倒れるが、葵の身体は少し楽になった心持ちがした。
鱗のビリビリも楽になるかと思い、試しにそこから雷を落とす。すると、みるみる地面には火が広がり、ビリビリが少し収まったように思えた。
(オレは、青龍ダーー)
(ナゼ、ココニいるんダッケーー?)
天に帰らなくては。上へ上へと進もうとして、違う事を思いだしだ。
(ソウダ。モウ帰れない。人間ニ天罰シナクチャ)
(破壊シナクチャ。オレはソノ為にココにイル)
「おい!っおい!!もうやめとけ!!正気に戻って後悔するのはアンタだぞ!! 」
大きな黒い蛇が遙か下の地面から追いかけてくる。
(アレは玄武ーー)
(アイツも破壊がウマイ。じゃあ、オレはアッチを破壊シヨウ)
方向を変えるためにくるりと尾を振ると、そこからまた雷が落ちた。
「うわっ!!チッ!法力がまだ充分じゃないくせに成獣になったせいで、正気を失っちまってやがる」
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