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青の章27

 葵が驚いて声を上げると、白い虎は見る見るうちに人の姿へと変化する。  そこに現れたのは背が高い褐色の肌の男だった。   所々破れた白い布をただ紐で巻いた粗末な格好だが、服の上からでも分かる立派な体躯のせいかみすぼらしく見えない。  光の加減によって、銀にも白に見える短く刈り上げた髪と金色に輝く鋭い眼光は、人の姿になってもなお獰猛な獣のような雰囲気だ。 「相変わらず目つき悪いね、白虎。今まで何してたのさ。こっちは色々大変だったんだけどね 」  千尋が呆れたように声をかけると、小さく低い声で白虎が答えた。 「鯨になっていた」 「え!? だって前も鯨だったよね!? まだ鯨なの!?」 「山は飽きたから、海にいたかった。鯨は俺の法力にも耐えられる身体だったから、丁度いい」 「え~、それで鯨になって何してたのさ?」 「? 鯨になっていた」 「……ごめん、白虎に聞いた俺が馬鹿だったよ」  葵は思わず笑ってしまった。ぼんやりとしか思い出せないが、白虎は昔から自由人でよく玄武と朱雀に怒られていた気がする。だが、青龍は白虎の纏う自由な空気が嫌いになれなくて、憧れに似た感情を抱いていた。  笑い声に反応して、白虎が葵の方に顔を向けると意外な言葉を発した。 「その赤ん坊、玄武だろう。それの世話は俺が請け合おう」 「え?」  驚いて聞き返すと、白虎は赤子の頭にそっと手をやる。その手つきは驚くほど優しかった。 「……俺は鯨でいる時、自分が霊獣があることさえ忘れそうな日々だったが、一度だけ玄武が訊ねて来たことがある。自分のせいで青龍が死んでしまった、と酷く狼狽えていた」 「あ……」  恐らく前世、玄武が呪いの言葉を吐いた時の事だろう 「俺はその時、どうせまた生まれ変わるんだから別にいいだろうと言ったんだ。そうしたら、玄武は変な顔をしてすぐ何処かに行ってしまった。俺は何となくその顔が気になって、入り江の近くで玄武を待つようになった。すると海の民の子供達が俺の周りに集まるようになった」 「海の民?」 「海の側で住む人々を総じてそう言うのだ。他の国と海上でやりとりするので、唯一他国と貿易を行っている民だ」  隣でフェイロンが教えてくれた。  なるほど、山の民がいるのだから、海の民もいるのだろう。 「ん? 山の民はこちらの人にとっては妖魔みたいなものなんだろう? 海の民もそうなのか?」 「は! 妖魔の方がまだ扱いやすいかもしれんな。とにかく金の為なら何でもする連中だ。俺の事など、耳障りな羽虫程度にしか思ってないだろう。だが唯一他国とやりとりが出来る連中なので、国としても無下には出来ん」  言っている言葉は荒いが、淡々とした口振りから察するに特別な悪感情があるわけではないらしい。 「子供達と関わるようになって、玄武がなんであんな顔をしたか、少し分かるようになった気がした。俺は、あいつに悪い事をした気がしている」  変わらないと思った白虎も長年の下界の生活は、やはり変化をもたらしていた。 「今度何かあったら助けようと思っていたら、おまえの雷が見えたので来た。その赤子は俺に任せてくれ。それに、お前はこれから隣の男との赤子を産むんだろう」

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