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青の章26

「葵っ!?」  フェイロンが大声をあげて葵に近寄ろうとするが、千尋が大きな翼でそれを遮った。 「大丈夫だよ、王様。青龍は元々春を司る霊獣。春雷は春の訪れを告げる雷。本来は生き物を目覚めさせ、息吹を宿す雷なんだ」  衝撃が消え去り、光が収まると葵の腕の中には黒髪の小さな赤子がすやすやと眠りについていた。 「なんと……」  フェイロンが恐る恐る近寄ってくる。 「これは……先程の人間か?」 「人間じゃなくて玄武だよ、王様。ふふ、可愛いもんだね」  後ろから千尋が覗き見る。千尋は人の姿に戻ると抱っこさせて〜と、腕を伸ばした。だが赤子は、小さな紅葉のような手でしっかりと葵の指を掴んで離さない。 「うわ、生まれ変わっても玄武だなぁ。アオちゃん、でも、この後この赤ん坊どうするの?」 「勿論、俺が育てるよ」 「え!?そうなのか!?」  フェイロンが驚愕の声をあげた。 「え、うん……あ、でも王宮でお世話になる事になるから、フェイロンが許してくれるならだけど……あ、でもまだ、俺、ちゃんとフェイロンに言ってない事いっぱいで……え~と……」 「王宮に住んでくれるのか!?」  フェイロンが勢い込んで聞き返してきた。 「う、うん……フェイロンがいいならだけど、お、俺としては、フェイロンの側にいたい……」  葵が赤くなりながら言うと、フェイロンは何やら下を向いて動かない。心なしか僅かに肩が震えている。 「め、迷惑かな?」 「迷惑なもんかっ! 赤子などいくらでも、百人でも二百人でも一緒に連れてくるがよいっ」  勢いよく赤子ごと葵を抱きしめると、フェイロンは満面の笑みで答えてくれた。  よく分からないが大丈夫なようでホッとしていると、隣で千尋が呆れた声で「そんなにいないから」と呟いている。  もう一度葵が赤子に目をやると、赤子はまだ安心しきったように健やかに眠っている。恐らくこの眠りは冬眠に近い状態なのだろう。赤子が目を覚ますまで根気よく法力を流し込む必要がある。 (いっぱい頑張ったから、ゆっくり休まないとね)  葵がその無邪気な寝顔に見入っていると頭の上に大きな影が横切った。 「アオちゃん!あれ!」  千尋の声につられて空を見上げると、熊の何倍もありそうな白い虎が悠々と葵達の上を飛び越え目の前に音もなく着地した。  そのまま大きな白い虎は葵達の方を振り向く。その瞳は金色に輝いていた。 「白虎!!」

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